遅ればせながら一周年記念フリーのお話です。
近々といいながらとっても時間がかかってしまいました。
終わり方が…わからなくて……。
しかも苦手なED2!!
少しでも皆様に喜んでいただければと思います。
フリーですのでよろしければお持ち帰りください~v
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*Birth day*
長い回廊の奥の奥。
城の最奥、といっても良いところにシキの執務室はある。
ある日の午後、その執務室のソファでアキラが穏やかな寝息を立てていた。
薄く開いた唇と、長い睫が頬に影を作る。
飲みかけの紅茶が入ったカップからは湯気が立ち上がっている。
午後の束の間の休息。
コーヒーをソーサーに戻しながら珍しいこともあるものだ、とシキはその口の端をわずかに引き上げる。
昨日まで各国との会談の調整でアキラは誰よりも働いていたせいだろう。
ここ二週間は2時間程度の仮眠しかとらず、昨日、一昨日は寝ていないはずだった。
手袋をはずした手の甲でそっとアキラの頬を撫でてから、隣の寝室から持ってきた薄いブランケットをそっとかけてやる。
アキラが管理する手帳を開いてこれからの予定を確認する。
「……午後は書類の決済か」
アキラが昨日までに処理した書類がシキに行くのは当然だった。
といってもその量は通常の倍以上だが。
ふむ、と一通り目を通してからシキはアキラの執務室に集められた書類をとりにいくため執務室の扉を開けた。
「誰も近寄らせるな。それから定時報告は18時の分にまとめて行うように言っておけ」
回廊の入り口を警備する兵にそういい置いてシキは足音も高らかに歩き去る。
城内を歩けばすぐに総帥たるシキに気づいた将校が慌ててシキの後ろに控えた。
「総帥、なにか不備がございましたでしょうか」
「気にするな。ただ少しばかり用事がな。………おい」
「は」
角を曲がったところでシキがぴたりと足を止める。
「あれは…何だ」
普段、寝室としてはほとんど使われることのないアキラの執務室もとい、部屋の前に軍服姿の兵達が郡をなしていた。
なぜかそれぞれが小箱や袋を抱えている。
そして、その部屋の前には兵達が抱えているような箱が既に積まれていた。
「少々お待ちください」
すぐ近くに立つシキに気がつくと兵達は持っていた荷物を隠すように散っていった。
普段ならば総帥を前に敬礼こそすれ逃げるなどありえないことだ。
それとも敬礼できない理由があったのか。
これはますます解せない、とシキは眉を顰めた。
将校が目の前の群の中から一人を捕まえて事情を説明させると、すぐに青ざめたような顔で帰ってきた。
その足取りは心なしか…重い。
「どうした」
「は。…あの…非常に申し上げにくいのですが」
「要件を言え」
シキの柳眉が中央によるのを見て慌てて将校が姿勢を正した。
「アキラ様の…御誕生日の贈り物、と言っておりました」
「誕生日だと…?」
明らかに温度の下がった声音でシキが呟けば息を呑んだ将校が普段から姿勢のよい背をさらに正した。
シキの補佐であるアキラがシキの寵愛を受けていることはこの城の者であれば誰でも知っている。
恐れ多くもそのアキラへの贈り物などと言い出したの一体誰なのだと将校の背を冷たい汗が伝う。
「すぐに片付けさせます」
その言葉がきちんと実行されるかを確認する前にふん、と鼻を鳴らすとシキは詰まれた箱には目もくれずアキラの部屋の扉を開けた。
溢れそうなほど書類の入れられたケースを持って部屋を出れば既にプレゼントだったらしい山は姿を消していた。
「…誕生日か」
聞いた事がない、とシキは目を眇めて己の部屋へと続く扉を押し開けた。
アキラは出て行ったときのままの体勢でまだ眠りの中にいるようだった。
薄い胸が上下に動いているのを確認するとシキは音を立てぬようにそっと抱えていたケースをデスクの上に置いた。
「ん…」
シキがチェアに座った瞬間、アキラの睫が震えて、その青灰の瞳が露になる。
チェアのきしむ音か、それとも部屋のシキの気配にアキラの意識が揺り動かされたのか。
ブランケットを握り締めて二度三度瞬きをするとはっと息を呑んで身を起こした。
「起きたか」
一瞬で事態を理解したアキラがブランケットを抱えたまま立ち上がる。
「…ッ…申し訳ありません!!」
慌てて立ち上がったアキラにシキは薄い紙をぺらぺらと振って見せた。
「いい。気にするな。それよりこれを手伝え」
美しい寝顔をもう少し見ているのも悪くなかったと、シキはアキラに気づかれぬように口の端を少し引き上げた。
深夜に近い時間。
ハードなデスクワークも1時間ほど前に終わり、アキラはたった今全ての書類を関連部署へと送り返したところだった。
こんこん、と控えめなノックの音がシキの執務室に響く。
「入れ」
「失礼します」
まるで教本に載っている見本のように綺麗に礼をしてアキラが部屋へと入る。
ぎ、と音を立ててこの部屋の、いやこの城の主が革張りの椅子をゆるく回転させた。
「終わったか」
「はい。全て滞りなく」
「そうか。…一杯付き合え」
その顎先で示した先にはシャンパンクーラーに入ったシャンパンボトルとそれからシードル、傍らに置かれたシャンパングラス。
綺麗に磨かれたフルート型のグラスが照明を反射してきらりと光った。
アキラがシキにこうして酒に誘われることは稀だった。
シキがアキラに無理やりブランデーを飲ませて潰してしまって以来だろうか。
生来アキラは酒に強いほうではなかったし、シキもそれを承知していたからだ。
不思議に思いながらもアキラはシャンパンクーラーからボトルを取り出す。
適度に冷えたボトルの栓を注意して抜く。
シキがシャンパンを飲むのを見たことがない、とアキラは僅かに首を傾げる。
意外とアルコール度数の高いシャンパンだが、シキにとっては大したものではないのだろう。
アキラにはシードル程度さえ立派な酒なのだが。
「…なにか良いことが?…ぁ…トウホクの制圧が終わりそうですからその前祝い、ですか?」
アキラは最近膠着気味だったトウホクの制圧が近々終わりを迎えそうだという今朝の報告書を思い出す。
「さぁな」
慣れた手つきでグラスにアキラがシャンパンを注ぐ。
淡い金の液体が小さく泡を立ててグラスで踊った。
「どうぞ」
「…今日は城が騒がしかったな」
シキにグラスを渡すとアキラも自分の分のグラスにシードルを注いでそっと口をつけた。
りんごの香りがふわりとアキラの鼻腔を刺激する。
「…そうですね…なにやら兵達が浮き足立っていました。先ほど見かけた部隊には気を引き締めるように言ったのですが」
顔色を伺われているようで奇妙でした、とアキラは首をかしげた。
「…………心当たりはないのか?」
「…いえ、特には」
シキは真剣に悩むアキラの顔を見て小さくため息をついた。
「どうかなされましたか?………っ」
ことりとグラスを置いて勢いよくアキラの腕をシキが引く。
バランスを立て直そうとすることと、片手に持ったグラスの中身をこぼさぬようにとすることに意識をとられてアキラはおとなしくシキ
の腕の中に収まった。
あまりに近い距離にアキラがわずかに目をそらす。
「…今日がお前の誕生日だと、兵が騒いでいた」
アキラのネクタイに指をかけてゆっくりと解きながらシキが言う。
「誕…生日ですか。………あぁ、部屋の前においてあったたくさんの包みは一体何かと思っていたのですが…」
なるほど、とアキラは小さく頷く。
シキが片付けさせたその後にも置いた輩が何人もいたのだろう。
「誕生日を部下に祝われるなどと…ずいぶんな人気だな?」
シャツの裾から差し込まれるシキの手にぴくりと肩を弾ませる度にアキラの持つグラスの中でシードルがゆらゆら揺れる。
「そ…うす…い…」
「……なんだ?」
唇か触れるか触れないかというところでシキの唇が笑みをかたちどる。
「ぁ……ちが…」
臍のピアスにシキの指がかかるだけでアキラの体はあっというまに熱を灯す。
その形のよい薄い唇が何かを言いたげに開くのをみるとシキは僅かに手の動きを止めた。
「っ…ひぁ…今日は…ん…俺の誕生日じゃ…な…っ」
「……なに?」
手を止めたシキにほっとしたようにアキラが体をわずかに弛緩させる。
「っ…俺の誕生日は…今日じゃないんです」
荒い息の合間に紡ぐアキラの言葉にシキが片眉を跳ね上げつつシャツのボタンを全てはずしてしまう。
アキラの乱れた服から色香が香る。
「……そうか…」
一瞬何かを思案する風を見せたがすぐに手の動きを再開する。
手袋越しにしか伝わってこないじれったい感触にアキラが熱い吐息をこぼした。
「…はい…ぁ…っんん」
「アキラ…それより言うことがあるだろう?」
誕生日が今日でないことはシキの誤算だったが、シキとしてはアキラを抱くのにいちいち理由をつける必要もないと思いなおす。
喉元を舌で辿りながらシキが面白げにそう言えば己の力で体を支えられなくなったアキラがシキのほうへ緩やかに倒れこんでくる。
その腰をしっかりと抱え、背骨をひとつずつ辿るように徐々に下方から上方へともう片方の手を動かした。
「総帥……ぁ…」
「違うだろう?」
キスを焦らすように鼻先が触れ合う距離でシキがささやく。
求めてもまだ与えられないキスにアキラがシキのシャツを握り締める。
「……っ…シキ…ッ…」
ようやく呼ばれた名前に、満足そうにシキの唇が弧を描く。
「良い子だ」
今度こそ与えられる深い深い口付けにアキラの背が緩くしなる。
角度を変えて幾度も幾度も。
ようやくわずかに唇が離れればその間を銀糸が伝った。
「…シキ…ぁ…ベッド……で」
「…仕方のないやつだ」
くたりと力の抜け切ったアキラを軽々と抱えシキは寝室のドアを開く。
運ばれる途中でもどかしげにアキラはボタンの全てはずされたシャツを脱ぎ捨て、帽子をシキに床に放られる。
ベッドまでの距離に転々とアキラの服やシキの上着が落とされていく。
「シキ…」
ベッドに髪を散らせながらシキの首元へ腕を伸ばしてその顔を自分のほうへ近づけた。
「俺の誕生日は…」
その耳元にアキラはそっと囁いた。
満足げに笑うとシキはアキラの首筋に噛み付いて赤い赤いシルシをその身に刻み付ける。
己のものだと、そう主張するかのように。
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あとがきは続きから
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