唐突に投下してみます。
間を空けていたのは自分なんですが、やっぱりどうも書きにくいというか、論理的じゃないというか破綻しそうでいつもはらはらしています。
なんか軽い気持ちで書きはじめた自分が憎いです(笑)
眠り姫状態のアキラの出番が相変わらずありません!
うわー、完成まであと一息かな~。
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*afterglow-13*
扉を開けてリンはわずかに言葉を失った。
電話がひっきりなしに鳴り、しかしそれを誰も取ることもなく怒声が飛び交っていたからだ。
いつ訪れてもこの城内では珍しく、淡々と仕事をこなすような人間の多く在籍する部署とは信じがたかった。
「だめです、突破されます!」
「おい、どうなってる!?」
「緊急ロックかかりません…っ!第1サーバーダウンします、リブート……できません!」
「おいおい、一体なんだ、これは!」
「誰か電話線抜いてくれ!」
「それどころじゃねぇ」
「くそったれ!」
怒号のように言葉は飛びながらそれでもその部屋の殆どの人間はコンピューターに向かい必死になにかしらの作業をしていた。
その大半が瞬きすら惜しむように画面を凝視してキーボードを叩き、その指先はとてつもない速さで動き続ける。
おそらく多くの人間がリンの存在に気づいてすらいないだろう。
ざっと見渡して話を聞けそうな人間を探し、ちょうど部屋に駆け戻ってきた若い男を捕まえて問いただす。
「何の騒ぎだ」
「テロです!」
「!?」
あまりに現況とかけ離れた言葉にリンは眉をぐっと寄せた。
「…サイバーテロですよ!城のサーバーに攻撃受けてるんです、あとウイルスもばら撒かれて、あちこちシステムが書き換えられてこんな状態です。やたら手が込んでるせいで対応しきれてません。データバンクにはまだ到達されてませんが…今の状況が続けば突破されるかもしれません」
話をしながらもあわただしく現状把握に男の目線は動き、本来ならば上官であるリン(シキ不在の城内では現在最も階級は上である)に呼び止められたことにいらだっているように見えた。
それほど切迫した状況だということだった。
基本的に城内のネットワークはそれほど規模は大きくない。
しかし防衛策だけは念入りに行われていたはずだった。
データの破壊で済めばまだいいが情報の流出は命取りになるとシキもリンも分かっていたからだ。
それこそシキの支配を支えている、言い換えれば最大の強みであり弱みでもあるNicoleの情報がここには蓄積されているのだ。
それをなんとしてでも手に入れようとするものは多い。
「……研究室には通達したか?」
「先ほど成田に。現在城内すべてのコンピューターはネットワークへ接続できないようにしています。それからしばらくは電話も使えないはずです。もしかしたら電気系統の方へ侵入されるかもしれませんが…まあ基幹部は予備電源があるのでなんとかなると思います…もういいでしょうか」
「……あぁ、すまなかった」
男はリンが許しを出した途端にすぐに自分のデスクへ戻っていった。
おそらく連絡するためにぎりぎりの人員を削って送り出されたのだろう。
まずリンへではなく最も重要機密の集まる研究室へ。
…マニュアルどおりだ。
おそらく下の研究室では最新のバックアップデータのディスクを所定の場所へ移し、紙媒体やコンピュータ内のデータの消去を行っているのだろう。
結局ここでリンは何も出来ることはなさそうだった。
現在の状況を幹部たちへ通達し、これからの混乱を最小限に抑えるための手はずを頭の中ではじき出すとすぐに来た道を戻り始めた。
一瞬アキラのことが頭をよぎったが、もし電源が落ちたとしても医療系の器具はすべて予備電源に接続されているため問題ないだろうと思い直し短く息を吐いた。
カラカラカラ、と望月が半ば寄りかかるような形でリネンカートを押して歩いていた。
カートの中身は空で、シーツ一枚入っていなかったが。
研究室へとそれを押して歩いていると幾つ目かのセキュリティを解除したところで成田と偶然鉢合わせた。
「………それはなんですか?」
「見てのとおりリネンカート」
「そういうことではなくて」
「書類運ぶのに便利そうだったんで拝借してきた」
はぁ、と成田はあきれたように嘆息した。
「今どれだけ忙しいかわかってるくせによくまぁそんなこと考えてる余裕がありますね」
「その仕事の効率化のためのカートに決まってんだろうが。頭の使い方にもいろいろあるってことだ」
その言葉にぴくりと成田の眉間に皺がよった。
それを面白そうにみると望月は何食わぬ顔で歩き出す。
「ま、別に俺はあんたがどんなに馬鹿だろうがどうでも良いがな。俺に害はないわけだし」
振り返ることもなくただそう言って、相変わらず面倒そうにカートを押しながら長い廊下を彼は研究室目指して歩いていった。
成田がしばらくの間険しい表情のままで彼を見ていたがやがてすれ違ったドアが閉まると彼もまた望月とは逆の方向へと歩みを進めた。
7人の幹部にリンを加え、現在は8人が会議室で対策を講じていた。
会議室でリンが現在の状況を幹部たちに伝えれば、当然のように沈黙が訪れる。
彼らはシキがいなくなってからリンに形だけは従っているものの、その内心には不満が隠れていることをリン自身よくわかっていた。
彼らが従っていたのはあくまで"シキ"なのだ。
集う幹部たちの年齢や経歴はさまざまだが、それぞれがひとつ小隊を任されている。
彼らを選んだシキ曰く"面白そうかどうか"らしいので(もっともその基準はよくわからなかったが)リンは彼らの全貌をいまいち理解できていない。
いつもシキが腰掛けるチェアに座るのはどうも気が引けたが、そんな己の思いをふりきってリンは深くそれに腰掛けた。
いっせいに見つめられる瞳に、シキと比べられているのだと、わかった。
「…城のサーバーに攻撃、ですか」
「おまけにウイルス、だ」
「しかしそう簡単に城のネットワークに侵入など出来るものだろうか」
「…事実されてしまっているではないか」
「とりあえず通信機が使えないので連絡の場合はすべて無線機で行ってくれ」
相手に実体がないせいなのか妙に会議の空気も締まらない。
実質、銃声が聞こえるわけではなく、城内のネットワークに接続できないこと以外は普段と変わったところはない。
そもそもこの場にいる誰もがそれらのデータの敵に対して成す術を持っていないというのが妙な空気を生み出している大きな要因だった。
銃やライフル、刀などの武器を手に戦うことは得意であっても今回に限ってはそれは何も意味を成さないのだ。
「いったい何者が、というべきなのですかな」
「というよりはどこの組織が、ではないですか?目的はもちろんデータなのでしょうが」
「まぁ組織ではなくどこかの国ということも考えられるな。アレは狙われて当然のものだからな」
「しかしシキ様の件を考えるとロシアという線が一番妥当なのでは?」
「それも確証がある話ではないだろう」
それぞれに言葉を口にするもNicoleを狙っている、という条件ではあまりにも心当たりは多すぎて何も特定できずに、結局無為に時間だけが流れていく。
唐突に部屋の明かりが落ちた。
先ほど報告を受けていたとおりだった。
「さて、電気系統もやられたようだな」
「…攻撃を受けているサーバーの電源が落ちれば攻撃されないんじゃなのか?」
「………どうでしょうか。あそこはもともと電源が不意に落ちても対策できるように設計されていたはずですからここのように突然電源が切れるということはないような気がしますね。まぁ手動でならどうなるのかは知りませんが」
「そもそも一括管理しているコンピュータが駄目になればセキュリティがすべて消えるんじゃないだろうか?」
その一言にリンは何か重要なことをひらめいた気がしたのだが、それは明確な考えを持つ前に消えてしまった。そしてそれを邪魔したのは、突如として響いた銃声だった。
思索していたリンを一気に現実へと引き戻すに十分な音で。
タタタタタ、という聞きなれたライフル音も混じり、部屋は一様に一気に緊張感に満ちた。
「っ!?」
「下か?」
それぞれが軍刀に一斉に手をかけ、左右の窓際に駆け寄ってカーテンの端をわずかにあけて外をうかがう。
相変わらずの曇天にくすんだ景色には特に異常は見当たらない。
いったい何の音だったのかと皆が内心で首をひねったところに今度は爆発音が響いた。
地響きのような揺れに城が攻撃されていることを瞬時に理解する。
「無線機の電源を入れてすぐに持ち場に戻れ!各部隊で直ちに報告、B1からE2体制に移行後に応戦、排除!!」
叫ぶように命令を下しリンは真っ先に部屋を駆け出て行った。
サーバー攻撃の後に武力攻撃。
城内を監視するシステムも現在は停止中とくれば完全に計画的だ。
シキがいないというのもあるいは漏れているのかもしれない。
続々と腰の無線機から応戦開始という報告が入ってくるにつれ、城内もどんどんと騒がしくなっていった。
城内へ侵入されたのだろう。階下からひっきりなしに聞こえる爆発音や破裂音、周囲では軍靴が立てる硬質な音があわただしいリズムを刻み、ここが戦場になったのだとリンに改めて認識させる。
この堅固な要塞じみた城さえシキの不在と、システムの不具合だけでこんなにもあっさり敵の侵入を許してしまった。
それがなにより自分の責任に思えてリンは両手を強く握り締める。
留守一つ守れない自分にいったい何が出来るというのだろう。
アキラが眠るのは城の最奥部であるので安全だろうが、それでも気にはなった。
アキラが自分では動けない状態であることと、もちろん非Nicoleとして狙われる対象となっていることは大いに考えられるからだった。
セキュリティが死んでいないのならエントランスからの距離が遠い下に運んだほうが安全だろうか。
しかし、この状況でアキラを運べるだろうか。
応戦に出遅れたこともあり何割かは城内に侵入をされているだろう。
少数の敵であればリンひとりでも十分に対応可能だが、アキラを抱きかかえて、となるとそれも難しいだろう。
階下の状況は音質の悪い無線機によればエントランスでの攻防が続いているようだ。
入り口はそこ一点ではあるが数に押し切られるという可能性もなくはない。
シキがはじめに連れて行った遠征組と、続々と出した捜索隊の分を合わせれば現在は総力の7割程度しか城に残ってはいないのだ。
結局、セキュリティが生きていた場合は多少遠回りにはなるが安全であろう道を通ってアキラを下へ連れて行くことに決める。
検査室にベッドがあるからそこに寝かせておけばいいだろう。
執務室へ戻る道程でセキュリティが正常に動作していることを確認すると、リンはその先のアキラの眠る寝室へと向かった。
廊下を曲がったところで扉の前に通常なら2人立っているはずの護衛がいないことに気がつくや否や、リンは全速力で扉の前まで駆けた。
嫌な予感がした。
心拍数が跳ね上がり、冷たい汗が背中を伝う。
まさか、もうここまで到達されてしまったのだろうか。
だとすれば抗う術のないアキラは…どうなってしまったのか。
呼吸を整えながら小銃の安全装置をはずすと、扉を蹴りあけて銃を構える。
そしてそのままくっと目を見き、リンの動きは固まってしまった。
トリガーにかけた指が、ふと力を失う。
「………………え?」
ベッドの上にアキラはいなかったのだ。
いたのはそこに腰掛けた別の男、ただ一人。
「………………………シ…キ」
まるでリンを待っていたかのように、シキはかすかに目を細め、笑った。
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あとがきはつづきから!
[31回]
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