シキの眼が好き。
あかい、あかい瞳。
この世界に唯一つの色。
夕日とだって、ルビーとだって違う。
「…しき」
「なんだ?」
名前がただ呼びたくて、つぶやいた言葉に返事が帰ってきたのは意外だった。
機嫌のいいシキの胸に寄り添ってベッドの中でわずかに身じろぎする。
ゆるゆると腕を伸ばしてその首に絡めて。
「…」
そのまま体をすこし動かしてシキのおでこにキス。
シキは何もいわないでじっと俺を見てる。
俺のしたいようにさせてる。
そんなシキがおかしくて、くすくすと笑って俺はキスを続ける。
鼻筋にキス。
頬にキス。
両の瞼。
耳。
首筋。
そろりと下っていけば突然顎を掬われる。
「そんなに足りないか?昨晩あんなに与えてやったろう?」
口の端をわずかに吊り上げて愉快そうにシキが笑う。
にやり、とシキが笑う。
「…いつも足りないんだよ…いつでも…ほしい」
ここにいる時間だってそう長くはないのに。
昨晩、城に帰ってきて、そのまま俺を抱いて。
そして朝になった今でも彼が俺の隣にいることなんて稀なのだ。
うれしいのだと、分かってほしい。
シキが今ここにいて俺はとても幸せなんだって、わかってほしい。
言葉にしたことはないけれど。
常ならば翌朝にぬくもりさえも残していってはくれないのだから。
いつもシーツの冷たさでアキラは目が覚めるのだ。
彼は忙しいのだと侍女たちは言う。
言外に俺などにかまっている暇はないのだと匂わせて。
…そんなの知らない。
シキは俺の所有者なんだから。
ちゃんと帰ってきて、それで、俺におかえりって言わせてくれなくちゃ嫌だ。
シキ。
シキ。
シキ。
その赤い瞳が俺を捉えて放さない。
俺の言葉を待っているシキの目をただじぃっと見つめればするりとシキが俺の輪郭をなでる。
その手のひらを取って、唇に押し当てる。
「シキがどんなに俺のこと抱いてもすぐまた欲しくなるんだ」
「…可愛いことをいう」
ふっとシキの顔が緩む。
熱い吐息が近づいて、唇を食まれる。
やわやわとした口付けは彼らしくないけれど、それでも心地はよかった。
啄ばまれ、そして離れ。
その繰り返し。
「シキ…」
堪えきれなくて、名前を呼ぶ。
シーツの海にシキと溺れる。
まどろみをたゆたうような幸福に満たされながら。
ずっとシキと一緒ならこのまま溺れ死んだって、かまわない。
[1回]
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