スズカ様へのキリリク小説です。
リクエストは「ストイックエロなシキアキ(ED2)」でした。
…ストイック………。
とりあえずあとはあとがきにてっ。
*loyalty*
アキラが男を斬った。
アキラの部下だった男だ。
アキラが目をかけ、いろいろな仕事を任せていた男だ。
シキの前まで引きずり出された男は抵抗したときの名残であろう傷を体のいたるところに負っていた。
そこにきっちりと軍服を着込み、髪を整えた青年の面影はどこにも見受けられない。
それほどにやつれ、疲れきったような風体で、それでもその瞳はしっかりとシキを睥睨していた。
ぎらついた瞳に宿るのは憎悪、それだけだ。
「…」
シキは"殺せ"とも"斬れ"とも言わなかった。
ゆったりと座ったまま、ただちらりとアキラを見ただけだった。
それでもアキラはシキの意思を違わず汲み取り、男を、斬った。
その男は謀反を起こそうとしていたのだ。
よりによってシキを倒そうと、していたのだ。
シキを至上とし、付き従うアキラが許すはずもない。
すらりと美しい剣を抜き、躊躇わずアキラはその男の首元に刃を滑らせれば、吹き出た血がアキラの顔、シャツ、ネクタイ…そういったものを一瞬で紅に染め上げる。
ニコルを服用していたであろう男のそれにもアキラは僅かに目を眇めただけで、表情に変化は見られない。
血を拭うこともせず、ただそこに立っているだけだ。
アキラの足元で、男がピクリと、動いた。
首元から間欠泉のように出血していても、男はまだ生きていた。
アキラは完全には殺さなかったのだ。
無表情のまま瞬間、アキラはしっかりと血濡れの男を見つめ、すっと剣先をその胸に充てた。
男が、笑う。
ごぼ、と血を吐いて、それでも。
浮かぶのは純粋な、笑み。
そうして…アキラの剣が男の胸へと吸い込まれていった。
音もなく、ただ男の心臓を貫いた。
男の体が一度跳ねて、止まる。
絶命したことを確認するまでもなく、アキラは剣を引き抜き血糊を振り落とした。
そしてすぐに、どこからか差し出された布で刀身を綺麗にふき取った。
凄惨な、しかしここでは良く見る景色の中にアキラはたたずむ。
その身を赤に浸していても"高嶺の花"と称される気高き美しさが劣ることはない。
むしろ赤はより一層アキラを彩り、アキラの全身から出る、ぴんと糸を張ったような緊張感をより際立たせた。
アキラの剣が鞘に戻ると同時にシキが立ち上がり、ただ"片付けておけ"とだけ言って出口へと歩を進める。
「アキラ、来い」
「…はい」
血塗れた姿のまま総帥につき従うアキラに皆、一様に言葉を奪われ、張り詰めた空気の中ただ二人のために道が開く。
「…なぜ一太刀で殺さなかった?」
シキの執務室に戻ればただ面白がるようにシキがたずねる。
「…殺すつもりでした。でも苦しませて死なせるのが順当だと」
「お前はすぐに血にあてられると分かっていだだろう?」
アキラがニコルを服用しているものたちの血液を浴びると、まるで酩酊しているかのような症状を引き起こすことは既に分かっていたことなのだ。
それは非ニコルのキャリアーであるせいだろう。
もっとも、比較対象がいないので断言はできないのだが、ここ数年で適合率が上昇したことが原因のようだった。
しかしそのような状態になると分かっていながら、アキラは血を浴びるであろう首筋をまず、斬ったのだ。
その血のせいで今もアキラの心拍数は僅かずつながら上昇をはじめ、それに伴って体温も高くなってきているのが目に見えて分かる。
淡く高潮した頬に、潤み始めた瞳に、引き寄せられぬ男などいるだろうか。
この姿を見せぬためにシキはアキラを連れて部屋まで戻ってきたのだった。
アキラの頬にはねた血をシキの手が優しくぬぐい、その肌の温度を確かめる。
確かにいつもよりも火照ったような熱に表情を変えぬままシキは幾度か手のひらを滑らせる。
アキラはそれだけでぴく、と小さく震え、シキを喜ばせた。
ふ、と笑ったシキはすぐにアキラを浴室へと押し込む。
「それはやく洗い流せ。俺はその匂いは好まん」
そういわれて初めてアキラは自分がまだ血を浴びた姿のままであることを思い出した。
純粋なニコルのキャリアーであるシキはニコルを服用した者の血がひどく鼻につくのだという。
それは以前からニコルという存在を憎んでいたからかもしれないし、己のうちに潜むウイルスの真の姿を知っているからかもしれない。
「…っ、失礼しました」
慌ててアキラが礼をとり、服を脱ぎはじめた。
血に染まったシャツが肌に張り付く感覚が不快で、アキラは眉を寄せたまま手早くそれらをまとめてダストシューターに放り込んだ。
「総帥…ッ」
風呂から上がったアキラはベッドに腰掛けたシキがアキラの刀を手入れしているのを見て慌てて駆け寄った。
「そのようなことは俺が」
「暇だっただけだ、気にするな。それより座れ」
ぽたり、と髪の先から水が滴るのもかまわずにアキラはシキに応じて床へと座った。
シキがアキラの刀で、その鞘の先でアキラの頤を上げさせる。
「そういえば……笑っていたな」
「…」
思考力が徐々に鈍ってきていたアキラが瞬きをひとつして、何の事か、とシキに問う。
「あの男だ。お前に斬られる時に、笑っていた」
その言葉を聴いてアキラは思い出したくもない、という風に視線を床へと落とした。
シキがその顔をさらに上げさせる。
「…っ」
気管をふさぐ様に喉仏の上から鞘を押し当てられてアキラは小さく咳こんだ。
「あの男は達成したのだ…忌々しいことだが」
「…達成…ですか?」
意味を量りかねて、アキラはよく回らない頭で思考する。
「…お前は知らなくていいことだ」
…あの男が、アキラを想っていたなどと、そんな情報をシキはアキラにやるつもりは毛頭なかった。
アキラに想いを寄せる故の謀反であった、と。
アキラを所有物として傍に置くシキへを憎しみを向けて、ただアキラに殺されるために謀反を起こしたなどと。
そんな事を言うつもりはなかった。
殺される瞬間の、あの男の幸福そうな顔を思い出すだけで腹の底から黒い感情がふつふつとわきあがってくる確かな感覚をシキは感じていた。
男にはアキラを決して手に入れることはできない、と分かっていたはずだ。
それにシキを殺せるはずもない、ということも。
だからこそアキラに最も信頼された部下という立場ではいられなかったのだろう。
アキラの瞳はけっしてシキ以外に向くことはないと、傍にいればいるほど分かっただろうから。
だからこそ男はアキラに殺される道を選んだのだろう。
殺される、その刹那。
その瞬間だけはアキラは悲しみと喪失と怒りと憎しみの瞳で男を見つめるのだ。
加えて、あわよくば部下を殺したという傷をもアキラの中へと残すことができる。
…そして、少なくとも男は目的を達成した。
シナリオ通りにアキラに殺されるという、最大にして唯一の目標だ。
……男は実現してみせた。
あの笑みは純粋なものでありながら同時にシキをあざ笑っているかのように感じられた。
『どうだ、俺も"アキラ様"を手に入れた。あなたには決してできない方法で』と。
それがシキには腹立たしくてならなかったのだ。
(あれは俺の所有物だ。それ以外の何者でもない)
「お前の所有者は誰だ?」
幾度となく繰り返される同じ問いに、アキラはいつも同じ答えを返す。
いくらその質問が唐突であろうと関係ないのだ。
いつも同じ答え。
「総帥、俺にはあなたしかいません。あなたが許してくださる限りずっとお傍におります」
そうしてアキラはシキの指先にそっと口付けた。
恭順の口付けだった。
真摯な声と、忠誠を誓う行為にシキの口元が満足そうに弧を描いた。
「良い答えだな」
はにかむ様にちいさく笑うアキラをシキは優しくなでてやる。
体温が高く、呼吸の浅いアキラはいつになく扇情的だった。
「来い、可愛がってやろう」
その言葉にアキラは一瞬目を見開いて、すぐに微笑みながらうなずいた。
「…っん」
アキラが着替えた清潔な軍服が次々と崩されていく。
シャツのボタンはすべてはずされ、ジャケットは床へと放られている。
白い肌のところどころにはシキのつけた跡が赤く残っている。
ベッドの上でシキのものを咥え丹念に奉仕するアキラの姿はいつでも献身的でいつでも妖しいほどに美しい。
時折いたずらに体を這うシキの手にアキラは素直に反応を返しぴくりぴくりと体が跳ねた。
今の血に酔った状態ではその感度も上がっているのだった。
「もういい…アキラ、準備は一人でできるだろう?」
そう言ったきりシキは多くの枕やクッションへ上半身を預け、ただ傍観する姿勢をとった。
いつもよりひどく乱れているアキラを見ていたかったのだ。
突然に奉仕をやめさせられただけでなく、いつもと違う要求にアキラは僅かに逡巡したが、そもそもアキラにはシキの言葉に従うという選択肢以外はないのだ。
その後孔にゆるゆると指を伸ばしゆっくりとほぐしていく。
さしたる時間をかけることなくアキラのそこはその指を飲み込んだ。
くちゅりと、淫猥な水音が響きだす。
「は……ん…っ…ぅん…」
瞳を閉じて徐々にアキラはその快楽へと身を投じようとしていた。
それでも最後の理性がアキラの声を押しとどめようとする。
その唇のあわいから漏れ出る甘い喘ぎにシキの口の端が更にあがる。
「どうした、今日は随分と淫らだな」
「…っ!」
現実に引き戻されたようにアキラの目が見開かれ、シキの視線に絡めとられる。
血に濡れたかのような深紅の瞳に捕らえられ、目をそらせない。
「ぁ…」
今にも泣きそうなアキラの表情にシキは言いようのない悦楽に駆られ、アキラを己の膝の上へと導いた。
その首筋から人差し指でアキラの体をたどる。
緩やかに、締まった体を撫でる。
そしてたどり着いた先は…臍のピアス。
「…んん…っ」
ぎゅっと目を瞑り襲い来る快楽の波をやり過ごそうとするアキラをシキは容赦なく追い詰めていく。
すっかりと肌になじんだそれは今ではもうアキラの体の一部となり、そして性感帯となっていた。
疼き、そしてくすぶる感覚に、血を浴びて高揚したアキラは一層と身をよじった。
「目を瞑るな」
耳元で囁くシキの声に、聴覚までもが犯されていくような甘い感覚にアキラはもう抗えない。
そういうふうにアキラはシキによって変えられた。
否、アキラが望んで変わったのだ。
アキラはシキのためにすべてを捧げる、そうして生きてきたのだ。
あの日から、トシマを出たあの日からアキラはただシキの傍にいることだけを考えて生きてきた。
だから迷わず、あの男も斬ったのだ。
ただ仕事ができる男だというだけで多くのものを任せていたに過ぎない。
その男が、謀反を犯し、シキに反旗を翻すというならアキラは何度でも、誰であろうと殺すことができるだろう。
「…し…き…っ」
アキラがとうとう呼んだ名に応えるようにシキはアキラを組み敷いて、己の屹立したものをその内部へと埋め込んだ。
「最初からそう呼べばいい。…部屋に入ってまで総帥などと下らぬ名で呼べといった覚えはない」
「…んぁっ……ゃ…ん…ん…ぅぁ」
揺さぶられるたびに甘く啼くアキラをシキは更に追い上げていく。
「…お前は俺のものだ…そうだろう?…この血液が、細胞が、俺を求めている」
「…う…ん…ぁ」
シキにはもちろん殺された男など、そんな影をアキラの中に残す気はない。
「…俺の血の中のニコルを…お前は感じるだろう?」
「…ぁ…」
アキラはただ首を小さく振ってうなずいた。
荒い息遣いのその合間に何度も何度もシキの名を呼ぶ。
「…なにも恐れることはない」
そう言ったシキの犬歯が、アキラの首筋の柔らかな肌を食い破った。
つながった血を頼りに、シキとアキラはただ前進していく。
何も省みることなく、ただ突き進むシキにアキラはついていくのだ。
それだけなのだ。
シキがベッドを降りて、乱れた服を調え始める。
「そうす…シキ…?」
あわてて呼びなおしたアキラにシキは振り向いて応じる。
起き上がった途端に顔をしかめたアキラを見て薄く笑った。
「まだ寝ていろ。体温が高い」
「しかし…っ」
「寝ていろ」
「…………はい」
アキラは大人しくシキに従い、その身を再び横たえた。
「すぐに戻る」
シキには後始末が残っていた。
残った謀反人たちの処分だ。
アキラが殺したのはその首謀者に過ぎない。
長引かせることはなにより面倒だと分かっていた。
なんといってもこれでアキラが「自分が責任を取って…」などと下らぬことを考えるかと思うとそれだけで面倒ごとは早く片付けなければ、と思うのだった。
「…いってらっしゃいませ」
部屋に一人取り残されたアキラは幾度目かの寝返りを打った後、火照った体を覚ますように大きく息を吐いた。
「……シキの傍にいたいだけなんだ」
だから、誰だって行く手を阻むものは消してみせるのに。
アキラの呟きは本人にも聞こえることはないほどに小さなものだ。
「…それだけでいいのに」
アキラはそっとシキが噛み付いた首筋を撫でた。
まだ新しい傷跡は甘い痛みを伴って、アキラの感覚を支配する。
シーツに残るシキの匂いやぬくもりを感じながらアキラは目を瞑る。
知らぬうちに疲弊した体が休息を求めていた。
「…お傍に、おります」
それだけをそっと言葉にして、アキラはシキが帰ってくるまでの眠りについた。
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