生ぬるいですが性表現ありです。
だめな方はお気をつけくださいね。
MELT ME
シキはまだ帰ってこない。
今回はちょっとだけ長い。
1ヶ月もシキは俺にひとりで何をしろって言うんだろう。
シキが、いないのに。
だけど、もうすぐ帰ってくる、って俺にはわかる。
体を流れる血が、俺に教えてくれるから。
シキが近づいてくる。
もう、すぐそこまで、きてる。
じっと窓に張り付いて外を見ていたら、やっぱりシキが帰ってきた。
いつもの黒い車からシキが降りる。
黒くて、ほんのひとかけら赤いシキ。
ざわざわと血が騒ぐ。
自分でも気づかないうちに顔が笑ってる。
そうか、俺嬉しいんだね。
綺麗に並んだ兵士たちの中央をシキが歩いて、そうして正門をくぐる。
そこまで見てから、俺は立ち上がった。
きぃぃ、と扉がすこしだけ軋む音を立てて開く。
明らかに見張りがぎょっとして慌てて姿勢を正した。
「アキラ様…っ」
俺が出てくることなんて、わかってたくせに。
シキの帰りを俺が出迎えないわけがない。
「…どいて」
邪魔なんかじゃなかったけど、物言いたげなその視線が面倒で。
「お部屋と違って外は冷えます。今日は気温が低いのでせめてもう一枚上に何か羽織られたほうが…」
確かに部屋を一歩でた回廊の床はひんやりと素足に冷たくて、少しだけ身震いをする。
でも俺はシキのシャツを素肌に一枚、それだけでいい。
「関係ないよ…シキを迎えにいかなくちゃ」
今度こそ俺はその兵士の脇をすり抜けて、シキの元へ急ぐ。
俺の精一杯の速さで。
迷うことなく階段を下りれば、指示を出しているのか、シキは何かをずっとしゃべってた。
俺には難しくてよくわかんない。
見えるのは横顔だけ。
「シキ」
まだそのシキの姿が見えるか見えないかの距離で呼ぶ。
シキはこっちを見ない。
聞こえていないはずがない。
だってシキの周りの人間がこっちを見てる。
…どうして?
ててて、と駆け寄ってその腰の辺りに抱きついた。
「…おかえり、シキ」
ふぅ、とシキが小さく息を吐く。
それは俺にしかわからないくらいに、本当に小さく。
「遅い。お前は主の出迎えも満足にできないのか」
「怒らないで、シキ。…だって部屋の前に立ってるやつがうるさかったんだ」
「ふん、どうだかな」
からかわれてる、ってわかるけど、唇が少しくらいとがるのは許してほしい。
だって、俺、嘘、言ってないよ。
「いい子にしていたか?」
「うん。俺、ずっと部屋にいたよ」
最近では気まぐれに兵士を部屋に誘い込むことも少なくなった。
少し飽きたから。
でも俺の相手を殺すときのシキは綺麗だと思う。
すごく、綺麗。
腕を伸ばしてシキの頬に触れる。
そうしてやっとこちらを向いた瞳に俺はすごく満足して、無言でキスをねだる。
「…んっ…んぁ…ふ……し、き…ぃ」
すぐに与えられた口付けが俺の思考を徐々に溶かしていく。
力の抜けきった体はいつの間にかシキに支えられていた。
名残惜しさみたいに銀糸が俺とシキの間を伝う。
片腕で抱えられて、歩き出したシキの肩口に顔をうずめればシキが喉を鳴らして嗤った。
「あっ…あ…んぅ……ひぁ…っ」
熱い。
シキで俺が満たされる。
このとんでもない快楽はシキじゃないと得られない。
肌が触れあうだけで、名前を呼ばれるだけで、それだけで。
「んんっ…ゃん…シキ、も…っと」
そうやって宙を蹴り上げていた足をねだるようにシキの腰に絡ませる。
突き上げられるたびに俺がシーツを握り締めるから皺がたくさんよっていく。
上質なベッドはトシマのあの部屋と違ってぎしぎしと音を立てることはないけれど、スプリングが効いているせいでまた聴覚とは別のところで俺を高めていく。
「…おまえはどこまでも淫らだな」
その言葉の割りには俺の髪を梳く手も、ところどころに与えられるキスもひどく優しい。
「…し…き…っ」
追い立てるように突かれる速さがあがっていく。
半ば泣き声が入り混じったような喘ぎで俺は啼き続ける。
「…アキラ…」
「…ぁっ…あ、あ、あ…ゃん…!!!」
呼ばれたことに呼応するように意識がはじけた。
シキが満足するまで抱かれた後、うとうととまどろみながらシキに甘える。
この時間が一番好きだ。
「しき…」
意味もなく名前を呼ぶのはいつものこと。
ゆるやかに、するするとシキの手が俺の頬をなでる。
きもちいい。
「少し眠れ…」
落ちかけていた瞼をシキの手で塞がれる。
起きたとき、シキは俺の隣にまだいるかな?
いたらいいな。
うん、いたら嬉しい。
いつもより少しだけ温度の高いシキの手のひらを感じながら俺はゆっくりと眠りに落ちた。
*********
あとがきは「つづき」からー。