*afterglow-01*
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リンは重いため息をついて軍服の襟を正した。
隊長であることを示す徽章を指の先で無意識に撫でる。
「シキ…アキラをどうするんだよ……」
そうして今日もアキラのもとへリンは向かう。
深い暗闇の中、靴音だけを響かせて。
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シキとの対決からはもう2年が経とうとしていた。
雨の中の戦いは壮絶を極めた。
しかしそれによってリンは昔のシキの行為の真の理由を知ることになったのだ。
カズイを殺したことは今でも許せなかったが憎むこともできなくなっていた。
そしてシキとリン、2人の間の蟠りが完全にではないにしろ溶けた代償としてなのか、その戦いでリンは片足を失った。
1年間のリハビリを終えて、リンはシキの元へやってきた。
憎しみという感情を取り除いた後にリンに残ったものはシキに対する興味だった。
そのころにはシキはラインを使って全国制覇を既に始めており、その勢力は日々拡大しつつあった。
シキは何も言わずリンを配下へと受け入れた。
もっともリンにしてみればシキの"下"についたなどとは微塵も思ってはいなかったのだが。
リハビリの効果もあり、冷たい義足はすっかりとリンの体になじんで、以前のように思い通りに動かすことができる。
いろいろと考えることも多かった1年の間にリンの体は飛躍的に成長しそれと比例するかのようにシキへの憎しみはある程度は融解してきていた。
そしてリンがシキの片腕として地方を征圧していくことになり、早1年。
ただひとつ、予想できなかったものといえばアキラの存在だった。
そもそもシキが誰かを傍に置くなど考えられなかったし、その相手がアキラだと知ったときの衝撃はすさまじかった。
そして…変わってしまったアキラをみて更に…驚いた。
それはシキの許可を得てシキの寝室へ入ったときのことだった。
「…アキラ……?」
ベッドの上でぼんやり窓の外を眺めていた青年は確かにアキラだった。
けれどその体は記憶の中のものよりもかなり細く、いつも感じていた張りつめた糸の様な緊張感を感じることも無かった。
ひどく透明な存在になってしまった、と思った。
その何もかもが華奢なアキラは以前では考えられないほど…よく笑った。
「…だれ?」
「俺のこと…忘れちゃった?……リンだよ、アキラ」
リンはそっと近づいてアキラの前に膝をつく。
「……リン?」
アキラは記憶の中によみがえるぼんやりとした面影をたどる。
目の前の眩いブロンドには確かに覚えがあった。
アキラの指がそのブロンドに伸ばされてするり、と何度か梳いた。
そして僅かな沈黙の後にゆるく首を振る。
「違うよ。…リンはもっとちっちゃかった」
「成長したんだよ」
思わず笑いがこぼれた。
アキラに最後に会ったとき、リンは確かにもっとずっと小さかった。
性別を間違えられることもあるほど中性的な顔立ちだった。
今では当然そんなことも無いが。
「…カメラは?」
「持ってるよ。今度撮ってあげる」
「…うん」
アキラはゆっくりとうなずいた。
目の前の人物をリンと認めたのかそれともそうでないのかは分からなかったが。
昔はアキラは写真に撮られることを嫌がっていた。
そんな小さなことに気づいてリンはよく分からない感情に胸を締め付けられる。
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