*奈落へのはばたき*
シキが軍を編成してまだ間もない。
まずは城の中の整備から始めたシキだが、それと同時に軍服を作らせた。
不思議がるアキラにシキはただ"カタチからなさなければならない事もある"とだけ言った。
多くの人間を統率するためには必要なことなのだと、アキラは後から知ることになる。
仕事が終わり寝室に入るなりシキが上着を脱ぐのを見て、アキラは後ろから手伝うようにしてそれを受け取った。
皺の入らぬように綺麗にコート掛けにかける。
隣の執務室には決済を終えたばかりの書類が積まれているが、これを各部署に戻すのは明日の仕事だ。
アキラは小さく息を吐いてじっと己の軍服を見つめる。
布地は厚く、丈夫で動きやすいように配慮されてはいたが重さはどうにも否めなかった。
もっとも、この布地の厚みがあるからこそ多少刀が掠った程度で怪我をしないのも、事実なのだが。
アキラは今までパーカーやTシャツばかり着ていたから余計そう感じるのかもしれない。
腰に掃いた刀の重みには慣れてもこの服の重みに慣れるまではまだしばらくかかりそうだった。
首を軽く回せばなんとも渇いた音が響きアキラは僅かに瞑目した。
「どうした?」
シキはぞんざいにネクタイを緩めながらアキラの帽子を脱がせ、床に放った。
「いえ…まだ服の重みに慣れていないので」
少し重たいんです、と続けたアキラにシキは鷹揚に頷いた。
「そうか、ならば…脱がせてやろう」
「え…?わ…総…すっ」
ぐい、とアキラのネクタイを掴んで引き寄せてからシキは噛み付くようにアキラに口付けた。
所在無げにさまよっていたアキラの手がゆるゆるとシキのシャツを掴む。
しゅるる、とネクタイが解かれ、引き抜かれてすぐに上着にも手がかかる。
「名前で呼べと言ったはずだが?」
ぽぅと僅かに上気した頬でアキラはこくりと頷いた。
「……シキ…」
そうだ、とシキの唇が弧を描く。
シキが軍を組織して、アキラがその傍に仕えるようになってからはアキラは懸命にシキの事を"総帥"と呼んでいた。
これも"カタチ"なのだとアキラは理解している。
口調も今までの粗雑なものから丁寧なものに切り替えた。
シキの傍に居るからこそ、それは大事なことであるように思えたのだ。
一方シキはアキラと二人の時にはアキラがシキの事を"総帥"と呼ぶことを良しとしなかったがそれ以外ではアキラの拙い努力を見るのは気に入っていたからアキラの思うようにさせていた。
倒れこむようにシキはアキラをベッドへと押し倒してその柔らかな首筋に緩く歯を立てる。
その間もアキラの衣服を剥ぎ取っていくことは忘れない。
「ふ…ぁ…シキ…」
「なんだ?」
愉快そうにシキがアキラに続きを促す。
…アキラのブーツがごとりと音を立てて床に落ちた。
アキラは何も言わず、いつの間にか手袋までも取り去ったシキの手を捕まえてそっと口元まで持ってきた。
その指先に薄い唇を寄せて口付ける。
人差し指から小指まで順にシキの指先が僅かな熱を感じる。
シキは残った片方のブーツも同様にして床に落とす。
ごとり、と音がした。
熱に潤み始めたアキラの瞳がさまざまな色を見せながらシキを映す。
一瞬いとおしげにシキはその瞳を見つめ返し、そしてすぐにアキラに捕らえられていた手を引き抜いた。
「ぁ…」
残念そうに、アキラが小さな声を上げる。
ふん、とシキは笑って肌蹴たシャツから覗く白い肌に手を滑らせた。
ぴくん、と小さく震えるのはいつものことだ。
わざと臍のピアスには触れずに、じわりとその周りだけを撫でればアキラが耐え切れなくなったのか身を捩って快感から逃れようとする。
抵抗するという選択肢は今のアキラにはもちろん無く、ただその両手がシーツを握って皺を増やしていくだけだ。
シキに抱かれるという行為をアキラはいつの間にかこの上ない幸福だと、感じるまでに変わっていた。
いつから、ではなく徐々に。
シキとしても部下の前で見せる冷徹なアキラの仮面をひとつずつ剥ぎ取って快楽に身をゆだねた時の表情を見ることに優越感にも似た感情を覚えていた。
いつから、ではなく徐々に。
足首のあたりに申し訳程度に引っかかっていたズボンと下着もアキラが足をするりと抜いて床に落ちた。
どうしようもないもどかしい快感にアキラはただ浅い呼吸を繰り返し、火照る体に冷たいシキの指先を鮮明に感じた。
「ひぁ…」
その冷たい指先が不意にアキラのその中心へと触れた。
既に屹立していたアキラの中心から零れる蜜を掬ってはシキはアキラの後孔へと塗りつける。
シキは決してアキラを絶頂へ導こうとはせずただただ先端を指先で弄い、アキラの首、胸、腹へと赤い花を散らしていった。
「似合うな…」
白い肌によく映える花に満足そうににやりと口の端を引き上げて己のものをアキラへと宛がう。
熱く質量を伴ってゆっくりと己のナカにシキを迎え入れながらアキラは苦しげに息を吐いた。
「んぅ…は…ぁ…」
「まだ慣れないのか、お前は」
アキラはその問いにただ首をふった。
肯定とも否定とも受け取れるような行為にシキは何も言わずぐいとアキラの腰を引き寄せた。
シキの根元まで飲み込んで内臓を押し上げるような感覚にアキラは小さく息をつめる。
アキラの呼吸が整うのも待たずにシキはゆっくりと律動を開始した。
「ぁ…あ…んぁ…ひぁ…ゃ…」
ぎゅっと指先が白むまでシーツを握ったアキラの口から甘やかな声が零れ落ちる。
その腕をシキは己の首へと回させてよりアキラと密着するように突き上げた。
アキラの素肌に堅い軍服があたる。
生理的な涙が一筋頬をつたって、シーツに染みを作っていく。
アキラの快感のポイントだけをシキは巧みに擦りあげた。
「ひ…ぁん……ん…ぁ…」
薄く開かれた瞳はどこを見ているか分からない。
「アキラ」
しかし名を呼ばれた瞬間、さまよっていたアキラの焦点がぴたりとシキの瞳に定まる。
潤んだ瞳は確かにシキを見ていた。
シキは汗で額に張り付いたアキラの髪を優しく払ってやりながら流れた涙を舌先で拭う。
「あ…っ…」
途端、奥まで穿たれてアキラの背が撓る。
「シキ…シ…キ……ぁん」
もうイきたいとアキラが強請る。
アキラの中心は切なげに揺れて、今にも熱を放ちそうだ。
「いいだろう」
シキはアキラの屹立したそれを緩く握りこんで緩急をつけながら上下に扱いてやった。
同時にアキラの最奥まで深く突き上げる。
「あ…あ…ぁ…や…んん…シキ…っ…シキ…!!」
「……っ」
前も後ろもシキに攻め立てられアキラはあっけなく白濁をその腹に飛ばした。
何拍か遅れてシキも熱くうねるアキラの中へと己の欲望の飛沫を吐き出した。
全て搾り取ろうとするかのような内壁の動きにシキは苦笑ともつかぬ声を漏らし大きく胸を上下させるアキラを見つめた。
射精の余韻に浸りながらゆっくりと瞬きをするアキラがそっとシキの方へ手を伸ばす。
その少し汗ばんだ首筋をなぞってうっとりと微笑んだ顔は壮絶なまでの色気を孕んでいてシキは僅かに瞠目した。
「シキ…傍に……いさせて」
その顔とは裏腹に紡がれた声は僅かに震えて弱々しいものだった。
はん、と鼻で笑ってからシキはアキラの鎖骨に歯を立てた。
犬歯が僅かに食い込んでアキラが小さく喉を鳴らす。
つぷり、と肌を食い破った音が聞こえるような気さえして。
「離れることなど…許さない」
しっかりと顔を上げてシキが不適に笑う。
アキラの血のついた赤い唇を舐めて、笑う。
「……はい」
その血のように赤い瞳を見つめながらアキラは嬉しそうに頷いた。
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