THE EFFECT OF KISS
最近、あれがやけにおとなしい。
以前なら俺が帰ってくるころを見計らって他の男を寝室へ誘い込んでいたりしていたものだが。
ただ俺が帰ってくれば必ず出迎えに現れ、甘えるように名を呼ぶところは変わらない。
その、声を聞くたびに、やはり遠征討伐に連れては行くまい、と思う。
あれには、城で主の帰りを待ちわびているのがよく似合う。
その声を思い出して以前からは考えられないな、と軽く嗤った。
あの、燃えるような瞳。
こちらの視線を跳ね返すように、挑んでくる。
その瞳が、はじめはただ、もの珍しかっただけだ。
金の毛をした猫を思い出させたからかもしれない。
もちろん今はそれだけではない。
あれをそばに置くことを俺が決めた。
離しはしない。
車が城へと近づくにつれあれの気配が強くなる。
あの刃物のような瞳も今ではめったに見れなくなった。
その代わりのように頻繁に目にするようになった快楽に身を焦がす姿も飽きないものなのだが。
以前は快楽に溺れまいと必死に抗っていたが、今では進んでその中に身を投じ、積極的に俺を求める。
それも、悪くない。
トシマにいたころに比べてずっと素直になったが、従順というわけではない。
そのたびに俺は躾をして、あれの身に所有者を教え込む。
もっとも、躾が功を奏しているかどうかは定かではない。
存分に抱いた後、あれは身を摺り寄せて俺の名を呼ぶ。
その声にかすかに感じる感情に名前をつけるのはまだ早い。
いや、名前などつける必要もない。
とんだ腑抜けた考えだ。
音も衝撃も立てずに、乗っていた車が門扉の前で停車する。
開けられたドアから外へ出れば一糸乱れぬ雑魚どもの列が俺を出迎えた。
見向きもせずにその中央を歩く。
こういった演出は無意味だとは思うが不必要だとは思わない。
雑魚どもを従えるには時に必要なものだ。
門扉の先には珍しくあれがいなかった。
また誰かを誘い込んだのかも知れぬ。
それならそれでいい。
相手を斬り、あれに仕置きをするだけの話。
すぐ傍らの男にいくつかの指示を出す。
そのとき、近づいてくる気配にすぐに気づいたが俺は目も向けずに指示を続ける。
「シキ」
周りの兵が音にならないざわめきを起こす。
まったく、仕様のないやつだ。
駆け寄ってきて、ふわりと腰に抱きついたその頭をなでてやる。
まだ、目は合わさない。
「…おかえり、シキ」
さぁ、アキラ。
そのすべてを俺にさらせ。
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あとがきはつづきからどうぞ!
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