キリ番お礼小説ですー。
モモ様のみお持ち帰り可となっております。
ED1のシキアキ。リクエストは「シキの世話をするアキラ」でした。
シキが目覚めた後にするかどうか迷いましたが「ED1」ということでいまだシキは眠ったままです。
あんまり「世話」の描写がないです…ね。すみませ!でも初ED1、とても楽しかったです。
リクエストありがとうございました!
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シキが意思を手放して、その深い眠りについてから季節はもう二度も廻ってしまった。
まさしく飛ぶように過ぎていく時間の中でただ、シキのそばにいたくて、シキを守りたくて俺はなんとかやってこれたのだと思う。
だんだん凛としたその姿が薄れていくような気がして、恐ろしくて。
似た服を着て、俺の体にはつりあわない長いシキの刀を振るう。
使い慣れたナイフを捨ててでも、そうしたかった。
それがシキの存在を周囲に知らしめると同時に、俺の中でのシキを風化させないための精一杯の抗いだった。
ピクリとも自分の意志では動かないシキと逃げながら暮らしていくことにも慣れてきた。
最近では追っ手もだいぶ少なくなり、一所に留まる期間が少しずつではあるが延びてきてもいる。
いつだって俺は信じてるんだ。
シキは、戻ってくる。
そう…シキは誰より強いから。
DISILLUSION
「…シキ、ただいま」
アキラはそっと後ろ手で扉を閉めて、寝室に佇む車椅子のほうに近寄っていく。
「…寒くなかったか?春にはなったけどまだ少し冷えるから、気をつけないとな」
シキのそのすっかりとなだらかになった肩にカーディガンをかけるとアキラはふんわりと微笑んだ。
逃亡生活の初めのころはシキを部屋に一人にしておくことに抵抗があったアキラだが、それでもただでさえ人目を惹く容姿に、車椅子では人々の印象に残りすぎる。
追っ手は少なくなったとはいえ、ゼロではないのだ。
シキは部屋に残し、買出しは手早くアキラが一人で済ませることがここ2年の間で習慣化していた。
居場所を知られることが何より危険だと考えればこその選択だった。
「今日は粥にしたんだ。…俺、だいぶ料理がうまくなっただろ?」
片手に椀を持ってアキラが決して応えの返ってこない問いを投げかける。
当然、咀嚼もしないシキだからアキラは野菜などの具材を細かく刻んでから調理していた。
小さな匙でそれを己の口へ入れると、アキラはシキに口付ける。
その舌でシキの喉の方まで粥を送り出して、やっとシキは申し訳程度に嚥下するのだ。
匙では上手くいかなかった。量が多くてもだめだった。
アキラは一口、また一口とシキに食事という名の口付けを与え続ける。
水分を摂らせるときもそうだ。
少しずつ、少しずつ水を流し込んでやることでようやくシキの中に水分が取り込まれる。
アキラはその生存のために動く喉や舌を感じて、ほっとするのだ。
あぁ、生きていると。
実感するから。
さらさらと指どおりのよい漆黒の髪をアキラが以前より幾分か骨ばった指で梳く。
「髪も伸びてきたな。…今度切ろうか」
そこまで口にして、どこまでも穏やかだった瞳が不意に揺らぐ。
力が抜けたかのように膝を折って、下からシキを見上げると、膝の上に投げ出されたシキの手のひらに己の手を重ねた。
「…シキ」
かそけき呟きは空気になじんですぐに融ける。
もうずっと味わってきた感覚だった。
当然、応えはない。
そう。アキラはそんなことくらいわかっていた。
だけれど、いつだって少しの期待を捨てきれない。
今度こそ呼びかければ不機嫌な声で"…なんだ?"と応えが返ってきやしないかと、いつだって思っているのだ。
その声を思い起こす度にアキラは自分がどういう表情をしているかよくわからなくなる。
もしかしたらずっと目覚めることはないのかもしれない。
アキラだってそう考えることがないわけではなかった。
それでもいつもアキラはシキに語りかける。
シキの目覚めを待って。
シキが目覚めるまで、語りかけるのだ。
ほんの少しの希望を胸に抱いて。
「…あんまり待たせるな……」
冷たい手を握って、震える声を押し隠すように、困ったような声音で呟く。
アキラは少し迷って、その後ゆっくりとその唇でシキの口唇をふさぐ。
ただ唇を重ねるだけの、キス。
冷たい体温が余計シキを思い出させてアキラはぎゅっと目を瞑る。
つぅっとアキラの頬を伝った涙が、顎先からぽたりと一滴、シキの手のひらを濡らした。
しばらくしてアキラはゆっくりと立ち上がり、目の端に滲む涙を拭って微笑んだ。
「シキ…俺、待ってるから」
「……ずっと、待ってるよ」
虚空を見つめ続けるシキの額にキスを落とし、顔を洗うために背を向けたアキラは、知らない。
アキラの涙が落ちたその、シキの指先がぴくりと動いたことを。
[4回]
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