書きかけお題を少しずつ消化。
初ED2です。
その割にはアキラが…うぅむ。研究しなければ!
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盲目な程に、一途に
月も中天を過ぎ、だんだんとその身を西へと傾け始めたころになっても城の執務室の灯りが消えることはない。
「総帥、そろそろお休みになられてください」
シキが決済を行った書類を種類ごとに選り分け、必要なものには押印をする手を休めアキラが言った。
ゆったりとした革張りのチェアに深く腰掛け、リラックスした状態ではあるが仕事を始めてそろそろ10時間になる。その間一切の休憩を挟まず(片手間に食事は摂ったが)シキは黙々とペンを走らせている。
シキの手を煩わせるものが少しでも減るようにとアキラはシキの署名が必要な最低限の書類しか渡していない。
それ以外はシキにわたる以前にすべてアキラが処理していた。
それでもこの地を統べるシキの仕事は一向に減る気配を見せない。
それこそがシキの地位を体現している。
最近、各地に広がる反乱分子が不穏な動きを見せているため、シキもアキラもここのところ満足に睡眠を取っていない。
その対応、軍の配備ならばともかく、なにより面倒なのは書類だった。
反乱分子などシキが行って切り捨てれば軍を送るより何倍も早いのだろうが、トップに君臨した今ではそうもいかないのだった。
睡眠時間はよくて3、4時間。
悪ければ1時間程度だ。
シキの睡眠時間がその程度だということはもちろんアキラも、である。
シキが手を止めぬ限り、アキラは決してその傍を離れようとはしなかった。
それは健気なほどの献身だった。
何よりもシキを優先することを至上とするアキラはシキの傍にいるときがどんなときよりも美しい。
アキラに憧れる兵がいるのも頷ける。
それにしてもここ何日か、さすがにアキラはシキの体が心配だった。
己よりもきちんと鍛え上げられた体であるのは分かっているのだが、それでもシキはアキラより遅く寝入り、アキラより早く目覚めるのだ。
いったいいつ休んでいるのか、誰よりシキの近くにいるアキラでさえきちんと把握できてはいない。
「お前は先に休め。俺に付き合う必要はないといったはずだが?」
アキラのほうをちらりとも見ずにシキが返す。
シキとしてはアキラの体のほうが心配なのだが、それがアキラに伝わっているはずもない。
それに、主を置いて先に休むなどアキラにできようはずもないのだ。
それと、とシキが言葉をつなぐ。
「二人の時には名で呼べといったのをもう忘れたか?」
ぐ、と言葉につまったまま、綺麗にそろえた書類の角を意味もなくアキラが弄う。
「…申し訳ありません」
搾り出すような声にまたしてもシキの方眉がぴん、と跳ね上がる。
「アキラ」
一際低くなった声にぴくりとアキラの肩が揺れる。
周りに誰もいないとき、シキはアキラに敬語を使われるのを嫌った。
アキラはもう何度もシキに注意をされてきたのだ。
それでも不器用なアキラはなかなか上手く切り替えができずにこうやってシキに叱責されるようなってもう大分経つ。
「………悪かったよ」
小さな声はそれでもシキの耳に届いて、そうしてようやくシキの口元にかすかな笑みが浮かぶ。
「いい子だ…あと30分したら切り上げるぞ。お前は俺が休まない限りやめそうにないからな」
タイに指をかけて少し緩めながらシキが嗤う。
「…わかった」
シキとは目をあわさないようにしながらもアキラの意識は常にシキに向いている。
シキはもちろんそのことに気づいているからこそ、アキラが己のほうを見なくとも今は何も言わないのだ。
もっとも、アキラを抱えたシキが執務室を出てくるのも、もう時間の問題なのだが。
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あとがきは「つづき」から。