*君の為に*
シキは強い。
誰よりも強くて…だからきっと弱い。
泣けばいいのに。
そう思ってシキの頬に手を伸ばす。
「…なんだ?」
「………ううん」
綺麗な紅い瞳は乾いたままで。
いつみても、綺麗で。
だけど。
だけど。
この瞳が潤んだところを俺は見たことがない。
俺は何度も何度もシキの前で泣いてるのに。
シキは…泣くことなんか嫌いそうだ。
また"惰弱な行為"とか"腑抜け"とか言われるに違いないのだけど。
でも。
「シキ…頭撫でてあげる」
「…とうとう頭が沸いたか?」
ベッドの上でシキの髪を梳く。
さらさらの綺麗な黒。
「いいの」
何度も何度も俺はシキの髪を梳いて、そっとその頭を撫でた。
申し訳程度に羽織っていたシャツをシキが器用に肌蹴させていく。
俺の肌にシキの歯が食い込んでも、首筋に舌が這わされても俺はシキの頭を撫で続けた。
シキ…泣いたらいいのに。
そうしたら俺が慰めてあげるのに。
「…ぁっ…ん」
ぎゅ、と撫でたままだった髪を掴む。
「…っぁ…ふぁ…シキ…ぃ」
「…なんだ?」
暫くしてシキが顔を上げる。
胸あたりからシキの舌の感触が消えて途端に体がシキを求めだす。
「ねぇ…名前…呼んで?」
「……アキラ」
「………うん」
とりあえず今日はそれだけで許してあげる。
シキが名前で呼ぶのは俺のことだけだって、知ってるから。
もっと、呼んでくれるよね?
ねぇ、シキ。
シキが泣かない分、俺がこれからたくさん鳴いてあげる。
シキの為に、鳴いてあげるよ。
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あとがきは続きから