なんか…寸止めって感じですね。
いろいろ折りたたんでます~!
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*唇の温度*
シキが部屋へ戻ってきた午後、アキラはベッドの上でふわりと微笑んだ。
一糸纏わぬままのアキラが動くたび、しゃらり、と涼やかな音がする。
「おかえり、シキ」
「…やけに機嫌がいいな」
明るい声音にシキは面白そうに目を細めた。
アキラはもっと機嫌を損ねているかと思っていたのだ。
ゆっくりとそのベッドに腰掛ければ当然のようにアキラはシキの隣に擦り寄ってきた。
しゃら、しゃら。
「シキが帰ってきたからだよ」
「どこにも出かけてなどいないが?」
「部屋から出て行ったくせに。しかも3日もここに戻ってこなかった!」
「城からは出ていないだろう」
「そんなの俺にとってはどっちも同じだ。」
シキに会えなければ同じだとアキラは唇を尖らせる。
そのつん、と上向いた唇をシキは面白そうに親指で辿る。
しっとりとして柔らかなこの唇がいかに甘いかなど、とっくに知っていた。
しかし口付けることはせず、ただゆるりと視線をアキラに滑らせる。
「大人しくしていたようだな」
「シキの言いつけどおりにね」
しゃら、しゃら。
その音の正体はアキラの両手、そして右足を戒める華奢な鎖が立てる音だった。
一見すればアクセサリーのような腕輪からのびるごくごく短い鎖で両手同士はつながれ、右足も同様に。
ただ足の方の鎖だけはベッドの脚へとつながっていた。
といっても大した長さはなく、アキラはこのベッドからさして移動しなかっただろうことが容易に分かる。
この瀟洒な手錠はうろうろと城内を徘徊しては男を誘うアキラへの罰、といったところだった。
また城内にいるシキを探している途中だったのか、中庭へと至る廊下に先日は貧血で倒れているのを発見されたばかりでもあった。
いつまでたってもちっとも部屋で大人しく待っていないアキラにシキは盛大にため息をついてみせた。
もっともそんなことで改善されるとは到底思っていなかったが。
そして手足の自由を奪ったままアキラを抱き、完全にアキラを満足させないままに部屋を後にしたのだった。
シキに触れられないから嫌だ、と抵抗していたアキラが動くたびに腕輪が皮膚に食い込んで淡く赤い跡をつける。
大体、それもシキは気に食わなかった。
シキがつけた戒めが原因で傷をつけるアキラに腹を立てるなど問題のすり替えもいいところだが、そんなことはシキにもましてやアキラにも関係なかった。
傷をつけるなと多少は強引に約束させて、一度だけ深く口付ければとろけた瞳でアキラは頷いて。
それが3日前の話だった。
シキはわざと部屋へ帰らなかったのだ。
アキラの腕を取り、そして足首を見て痣や傷が出来ていないことを確認したシキは褒美をやってもいいぞ、とアキラへ囁いた。
唇の触れ合わないぎりぎりの位置で面白がるようなシキにアキラはふふふ、と笑った。
一気に瞳に淫蕩な色が滲む。
「それ、なんでもいいの?」
「俺の気分次第だがな」
主の言葉に期待を寄せたアキラはシキを腕の輪の中に通すようにして体を近づけた。
アキラの自由を奪う鎖がシキの項に宛てられ、そして軽い力で引き寄せられる。
逆らうことなく望まれるがままわずかに上半身を倒したシキは確かにアキラの体温が上がっていることを知る。
「シキが最後までしてくれなかったから…あのあと俺、一人でしちゃった」
「それで満足したのか?」
「………満足したって言ったら…?」
「俺の目の前でやらせるだろうな」
「意地悪」
「どこがだ」
ふ、と口元を緩めたままシキは強い眼光でアキラを射抜く。
赤い瞳に見つめられるたびにアキラは体の奥や、心の中までも見透かされているような気分になる。
何気ない言葉の応酬もほんの戯れにしか過ぎないことをお互いがよくわかっていて、だからこそ意味のないことばかりを話していられた。
「………ぜんぜん満足なんてしなかったよ…足りなくて…悲しくなった」
「だろうな。淫らなお前が自慰で事足りるわけがないだろう」
「ね…だからしよう?」
「てっきり望みは鎖を解け、かと思っていたんだがな。それよりも快楽を優先するか。どこまでも淫らだな」
「…鎖はシキが好きなときに解けばいいよ」
シキにつながれてるって考えるのも悪くないし、と胸中でアキラはこっそりと笑った。
せかすように腕で鎖を引いて、シキを誘う。
唇がふれるまで、あと少し。
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