頑張る月間持続中です。
長さを気にするのをやめました!
とりあえず完結目標で!
なんかこれも後から追記しそうな気がするけど…でもとりあえず投下しておきます!
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シキの気配がする…様な気がするのに、どこにいるかはまるで分からなくて俺は…どうしたらいいかわからなくなる。
俺はずっとシキを待ってばっかりだった。
今の城に移る前も、そう。
うん、そう…きっと、ずっと。
寒い日も、暖かい日も、朝も夕も…ずっと。
シキが部屋に戻ってくれば無条件で嬉しかったし、その後はシキをどうやって部屋に引き止めるかしか考えてなかった。
シキの心も体も全部欲しかった。
俺のそばにいてほしかった。
シキがいないと…不安になった。
だって俺はシキに変えられてしまったんだから。
もう、昔の俺とは何もかもが違う。
シキが作り出した俺は、シキがいなければ存在意義を失ってしまうのに。
あまりにもゆがんでしまった俺はシキがいないとだめだって分かってたけど、きっとシキはそうじゃないんだと思う。
だってシキがそんなに弱いわけない、から。
戯れのように俺を蹂躙して、時折痛めつけて、いきなりふっと優しくなる。
俺を抱いた後に、どこか満たされない目でシキは遠くを見る。
大概はその後に城の外へと出かけてしまうんだ。
…俺を置いて。
そのときのシキの中に俺はいない。
俺の中にはシキしかいないのに。
それが悔しくて…悲しかった。
少しでもこっちをみてほしくて男を誘ってみれば、始めの頃はそれなりに効果もあったと思う。
俺に手を出した男を殺した後は、シキはいつも激しく抱いてくれた。
それだけで生きてるって…感じた。
だけどそのうち俺もシキもそんなゲームには飽きてしまった。
俺はどうしたってシキ以外で満たされることはなかったし、シキだってそんなこと分かっていたはずだった。
何よりも俺達を結び付けているのはNicoleという絶対的な存在であって揺れ動くような感情なんかじゃなかったから。
そんな…脆いものじゃなかった…のに。
あの日、シキが出かけて…約束した日に帰ってこなかった。
待っても待っても…帰ってこなかった。
段々と俺は窓の外ばかり気にするようになった。
シキがはやく帰ってくればいいのにって。
そう、俺は待つばっかり。
…でも夜になればシキにあえた。
目が覚めれば…もうどこにもいなかったから夢だと分かっていたけれど、それでもよかった。
シキって呼ぶと頬を撫でて、髪を梳いて、キスしてくれて、俺がねだるだけ抱いてくれる…優しいシキ。
夢の中の出来事はいつだって俺に都合がいいようにできてる。
寂しい昼は前の晩に見た夢の中のシキを思い出そうとしたけれど、いつも顔がぼやけてはっきりとは思い出せなかった。
あの赤い瞳で俺のことを見て欲しいのに。
あの瞳に俺はずっと囚われたままだから。
俺はどうしてこんなことを考えているのか、不思議だった。
多分…シキがいないからだ。
シキと出会って俺は少しずつこうやって考えることを放棄していったから。
シキのための人形になって。
でもそれでいいと思ってた。
シキが全部俺から奪っていって、俺が空っぽになって。
それでいいと…思っていたんだ。
いつだってどうすれば上手くいくのか全く分からなかった。
だからいつも上手くいかなくて、俺はいつもシキを呆れさせてたに違いない。
"行方が分からず…"
"…亡くなっている可能性も…"
急に流れ込んできた記憶に苛立った。
シキが死ぬわけない。
なのに。
だから。
そんな嘘は聞きたくない。
俺を置いていくわけない。
俺は…シキの所有物だから。
最後にシキが俺を殺してくれるまで俺はずっとずっとシキのものなのに!!
"シキ様はどこにいるか知ってますか?"
ふ、と声が聞こえた。
その声に俺の苛立ちは更に増す。
俺がそんなこと…知るわけない。
俺にはシキしかいないのに、俺はシキのことを何も知らないんだ。
シキは何も俺に教えてくれなかった。
でも…俺だってなにも聞きはしなかった。
そこまで考えて俺は小さく声をこぼした。
俺……もっとシキのこと、知ろうとすればよかった。
記憶だけに縋るのはとても怖かった。
俺は、忘れたことさえ忘れてしまいそうだから。
*afterglow-12*
「アキラ、おはよう」
リンはいつものように身支度を整えてすぐにアキラの部屋へと向かった。
重たいカーテンを開けば、大きな窓から陽光が差し込んだ。
くすんだ空の広がるトシマでもそれなりに快適だとリンは思っている。
なによりもすっかり慣れてしまったというのはあるが。
相変わらず眠ったままのアキラに微笑むとリンはそっとその額に口付けた。
「夢の中にシキはいる?」
だから起きないの?とリンはそっと呟く。
もしそうだとしたらアキラにとって、どちらが幸せなのだろう。
返事のないアキラの額にもういちどやさしく口付けてリンは微笑んだ。
「…いってくるね」
軍帽をきゅっと被りなおしてリンは出て行く。
いつものことだった。
深く椅子に腰掛けて、たまっていく一方の書類に軽くため息をつく。
その中からシキ関連のものだけ選り分けながら読んでいけば更にため息が増えるばかりだった。
…シキに関する情報が一切入ってこない。
シキらしき男の情報もあれ以来入ってくることはなく、相変わらず捜索部隊とは連絡が取れない。
城の警備も考えるとこれ以上やたらと捜索隊を送るのは難しいように思えた。
かといってシキを探さないという選択肢もリンにはなく。
そしてアキラは未だ目覚めない。
…アキラが目覚めて今の状況がどうにかなるわけでもなかった。
アキラにとってはそのほうがいいのかもしれない。
だからアキラが目覚めればいいと思っているのは自分のためだと、リンは知っていた。
そうすれば自分の気も少しは晴れるのではないか、なんて淡い期待を抱いているのだ。
(最低だな…)
軽く自嘲すると余計に空しくなって、くしゃ、と前髪をかき混ぜる。
何もかもが上手くいかない。
すべてが後手にまわって、いつかきっと取り返しのつかないことになってしまうんじゃないかと、リンは不安で仕方がない。
アキラのことも、もっとやり方があったんじゃないか、と。
シキを待ち続けたアキラに、もっとしてあげられることはなかったのか、とか。
仮定はきりがなくて、考えても仕方のないことをぐるぐると思考せずにはいられなかった。
こういうときに限ってシキのことを思い出した。
いつでも迷いなく突き進んでいく兄を、うらやましく…思った。
しかしリンがそんな感傷に浸っているのもわずかな時間だった。
仕事をしなければ、と頭を切り替えてコンピューターをたちあげる。
慣れた手つきでパスワードを入力すると、不愉快な警告音とともにエラーが表示された。
打ち間違えただろうか、と今度は丁寧に打ち込んでも結果は同じだった。
その後いくつかの方法を試しても城内のネットワークに接続できなくてリンは首をかしげる。
胸元から携帯電話を取り出して管理部に電話をかければ、コール音が鳴るばかりで一向に応答しない。
「………?」
訝しげに眉を寄せてリンは電話を切った。
電話に出ない状態というものがよくわからなかったからだ。
それなりに人数はいるはずであったし、なによりもよっぽどのことがない限り電話やメールには即時対応が鉄則だ。
そのままもう一度電話をかけても同じ結果だった。
他の部署にも電話をかけてみるがどうも混線しているようでしばらくすると電話も通じなくなった。
全くもって仕事が進まないので結局リンは直接聞くか、と席を立つ。
……何が起こっているのか、全く分からなかった。
その部屋に設置してある数多くのモニターには城内のあらゆる場所が数秒ごとに切り替わりながら映っていた。
「はじまったか…」
ひとつの画面をじっと見つめると優雅に足を組み替えて、にやりと、男の口の端が引きあがる。
そのモニターの中には白衣の男が映っていた。
[8回]
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