*Scarlet Sorrow*
さく、さく、と乾燥した枯葉を踏みながらアキラは歩く。
先ほど追っ手を倒したばかりのアキラは心なしか疲れて見える。
とはいってもそれは容姿のせいではなく(アキラのコートには返り血すら見当たらない)、彼の醸し出す雰囲気がなにか暗澹としたものを孕んでいるかのようだったからだ。
(はやくシキの元へ帰ろう…)
アキラの心を捉えて放さない、彼。
今も部屋でただ虚空をみつめているのだろう。
さく、さく、さく。
柔らかい腐葉土の上にできた絨毯はアキラの一歩一歩を優しく受け止める。
赤や茶、黄の葉がアキラに踏まれ、割れて、僅かに舞い上がる。
やがてアキラはその歩を止めて、頭上に広がる紅葉を見つめた。
風にあわせて枝が揺れ、そしてたくさんの葉がひらりひらりと落ちてくる。
見えない風を視覚化するように、アキラに、降り注ぐ。
「…シキ」
こうして秋を迎えるのももう何度目だろう。
車椅子に乗るシキと二人で過ごして何年たったのだろう。
今はもうあの日本刀のような鋭い光をどこにも見つけられない紅い瞳は、鮮やかさはそのままにただのガラス玉のようになってしまった。
この、落ち葉のような紅。
血の色。
じっと足元に広がる葉を見つめ、アキラは感傷を振り払うかのように小さくゆっくりと首を振った。
そして、ふっと表情を緩め、優しい手つきで足元から何枚か落ち葉を拾った。
それを割れないように大切に胸ポケットに入れてアキラは再び歩き出す。
目を一度瞑り、ゆっくり開ける。
深呼吸を一つ、それからドアノブに手をかける。
ぎぎぎ、と軋んだ音を立てて扉が開く。
寂れたホテルの一室。
シキはアキラが出て行ったときと変わらぬ体勢でそこに、いた。
「ただいま、シキ」
柔らかい声でシキの名を呼び、その膝の上に先ほど拾ってきた落ち葉を乗せる。
アキラがシキの手に落ち葉を触れさせると擦れあってかさかさ、と乾いた音を立てた。
「シキ、ほら綺麗だろ?もう外は落ち葉でいっぱいなんだ。今度いっしょに観に行こうな?」
穏やか過ぎるほどの声音。
シキに向けられる表情はどこまでも凪いでいる。
「落ち葉がシキの瞳みたいで…綺麗なんだ」
アキラの指先がシキの目にかかった前髪をそっと梳く。
「……すごく、綺麗なんだ」
すこしだけ顔を歪めてアキラは、笑う。
困ったように、それでも幸福そうに。
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あとがきは続きから!
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