アンケートで一番獲得票が多かったED2です。
シキに一途なアキラは書いていて楽しいです。
ED1はアキラはシキの隣、ED2はシキの一歩うしろ、ED3は抱っこされてるといいなぁと思います。
それぞれアキラはEDによってシキとの距離感が違うのだと思います。
むむむ。
どうかなぁ。
*progression*
「総帥、お茶がはいりました」
風が冬に向けて少しずつ冷えてきているが、相変わらず陽は暖かい。
シキの執務室は薄いカーテンで濾過された柔らかな陽光で満たされていた。
アキラは運ばれてきた小さなワゴンから慣れた手つきで茶器を扱い、シキのデスクへと置いた。
シキへと呼びかける声は部下がいるときと比べひどく柔らかい。
小振りの皿には甘さを抑えたブラウニーが品よく並べられている。
もっともそれにシキが手をつけることなどあまりないのだが。
「アキラ、未決裁の書類はこれですべてだな?」
判を押しながら疑問ではなく事実の確認をするような口調でシキが問う。
「はい、本日のデスクワークはこれで終了となります。18時に兵たちの訓練の視察が入っていますが、あと30分程ありますのでそれまですこしお休みになられてください」
「あぁ、そうしよう」
ここ連日のオーバーワークでさすがのシキも疲れているのだろう、珍しく首肯したのをみてアキラはほっと内心息をつく。
(せめて少しでもシキの負担が減るように俺がしっかりしなければ…)
部屋に満ちていく紅茶のほのかな香りにアキラの顔がわずかに緩む。
シキの執務室には決まった時間に決まった人間が報告を行いにくるだけで、常にシキの傍らにひかえているのはアキラだけだ。
アキラはこの執務室にいるときに自分だけがシキの傍にいることを許されているということ、それを実感することができるのだった。
アキラは己の立場と役目とを十分に理解していたからできうる限りの最大限の努力と犠牲と献身とをもって仕事をこなしシキに仕えてきた。
すべてはシキのため。
アキラの体、爪から髪の毛、そしてその魂さえもシキのものなのだ。
すべてを主へと捧げ、生きてきた。
トシマを出たあの日からアキラの意思は揺るがない。
そうしていつの間にかアキラの定位置はシキの右斜めうしろとなった。
シキの横でもましてや前でも完全にうしろでもない。
シキから一歩下がって傍にひかえる。
アキラはそこからシキの美しい姿を目に焼き付けるのだ。
そして周囲もまたシキの傍に控えめに立つ、美しいアキラを高嶺の花と謳う。
絶対主君に寄り添う姿はアキラの性格を如実に現していて、兵たちからは憧れと尊崇の眼差しが絶え間なく注がれている。
シキがティーカップへと手を伸ばし、一口嚥下した後で小さく笑う。
「…紅茶を淹れるのが上手くなったな」
「!……ありがとうございます」
突然の賛辞にわずかに驚きながらもはにかむようにアキラは笑った。
その笑顔はシキだけが知っているアキラの極上の微笑み。
鍛錬中に突如現れた自分たちの主に、30人ほどの小隊の兵たちは鍛錬の手を止めてすぐに姿勢を正した。
アキラはそれに軽く手を振って続けるように促す。
その場の責任者を呼び、経過報告をさせる。
「アキラさま…なにか不備がございましたでしょうか…?」
「いや、総帥が鍛錬の視察を、と仰った。いつもどおり続けてもらって構わない」
とは言われたものの、シキとアキラがいるだけで空気がぴりぴりと張り詰めており兵たちは気もそぞろだった。
そんな状態の兵をシキは見渡して、面白そうに喉を鳴らす。
「アキラ、稽古をつけてやったらどうだ?」
思わぬシキの言葉にアキラのみならず兵たちが一斉にシキのほうを向いた。
「…はい、分かりました」
その了承に兵たちは色めきたった。
アキラから稽古をつけてもらえることを何よりも皆が待ち焦がれているのだ。
偶にアキラは請われてこうやって稽古をつけることがあったからだ。
もっとも普段はシキの補佐が忙しくなかなかあるようなことではないが。
「アキラ、お前はこれを使え。少しはハンデがないとな」
そういってシキが放り投げたのは軍支給の短剣だった。
アキラがいつも使っている剣とは長さも形状も違うそれに表情を変えることなくアキラは頷いた。
何度か確かめるように短剣を握り、すっと構える。
「アキラを殺すつもりで向かっていくことだ。一度に何人でもいい。ただしアキラに服を裂かれたら終わりだ…いいな、アキラ?」
訓練を取り仕切るようにシキが言葉を発し、周りはそれに耳を澄ます。
「はい。服を斬ればよろしいのですね」
シキの号令とともに何人かがアキラへと向かって走り出す。
「予想より時間がかかったな」
「申し訳ありません。これに慣れるまでに少しかかりました」
「だろうな。大分お前の剣よりリーチが短い」
アキラには傷ひとつ見当たらない。
わずかばかり髪とシャツの襟が乱れた程度だ。
それに比べ兵たちの服はどこかしらが裂かれ、皆が息を荒げていた。
身軽なアキラを捕らえるのは想像以上に体力を要するのだ。
その儚げな外見とは裏腹にアキラはとても強い。
これが高嶺の花と言われる所以でもある。
強さも美しさもほかの誰かを魅了してやまないのだ。
アキラがすべての兵の服を裂くまでに要した時間は20分程度。
それでもシキにとっては"遅い"のだろうとアキラは反省する。
きちんと短剣を鞘に戻し、アキラは乱れた襟を正した。
「また稽古をつけてやろう」
アキラの髪を手で直してやりながらシキが囁く。
「ありがとうございます」
アキラは深く礼をとり、帽子をかぶりなおした。
兵たちがアキラの稽古を楽しみにしているようにアキラはシキの稽古を楽しみにしているのだ。
シキは強くなれ、とアキラに言った。
だからアキラは何をもってしてもシキに次ぐ強さを保たねばならないのだと、訓練を重ねてきた。
シキの言葉は絶対なのだ。
アキラを支配する、声。
すべてはシキのため。
誰よりも尊い主のためにアキラはすべてを捧げ、すべてを懸け、すべてを捨て、すべてを得るのだ。
なによりも尊い、シキのために。
[3回]
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