*gift*
シキは歩くのが早い。
俺は追いつけなくてちょっと遅れて、それでちょっと走る。
待って、って言いたくなくて、頑張って追いかける。
シキは止まらない。
おなじ速さでずっと歩く。
ついて来い、って言われて部屋から出た。
どこに、なんて事は聞かない。
ただシキについていくだけ。
それだけ。
シキがぴたりと足を止めたのは黒い扉の前。
城のどこにも使われてる扉。
でも…こんなところに扉なんてあったっけ?
俺はあんまりそういうの気にしてないから覚えてないだけかもしれない。
「開けろ」
シキが部屋を出てはじめて喋った。
そぉっとシキを見れば早くしろって顔してる。
ゆっくり扉を押し開けた。
ぎぎぎ、と軋む音がしてそれから感じるいろいろな…匂い。
「…ぇ?」
目の前の光景が信じられなくて隣にいるシキを見つめる。
綺麗な色の芝生にたくさんの花が植えられている、自然にあふれた箱庭。
土とそれから緑のにおいがする。
「気に入ったか?」
こくりと頷けばシキがその庭へ一歩を踏み出す。
ブーツが柔らかい芝生をつぶして音を立てた。
「お前の庭だ…好きに使うといい」
「俺の…庭…」
庭なんて、おねだりした覚えはないけど。
でも花が揺れてるこの景色はすごく綺麗で思わず笑う。
「シキ…」
俺もシキを追ってその庭へと足を踏み入れる。
さわさわとした感触がくすぐったくて笑いが零れる。
少し先に立ってるシキのところまで歩いていってぎゅっと抱きついた。
「ねぇ、どうして"これ"作ってくれたの?」
暖かい、シキの体温がちょっとずつ俺に移る。
「お前は外に出てはすぐ怪我をするからな」
そういえば外は石がごろごろしててすぐ足を切っちゃう。
それで、シキに怒られるんだ。
ごめんなさいって言うかわりにもっとぎゅってシキに抱きついた。
シキは俺を抱き上げて、楽しそうに喉を鳴らした。
[2回]
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