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唇のあわいからあなたへ甘い毒を注ぐ。幾度も、幾度も。
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お礼SSを書かせていただいてます。
踏まれた方はコメントか拍手でご一報くださいね。
シチュエーションなどリクエストいただけると助かります~。



ぱちぱち

プロフィール

HN:
coffin
性別:
女性
自己紹介:
無類のシキアキスト。
次点でリンアキ、グンアキ。
そしてわりと好きなカウアキ。
なんにせよアキラは受けです。

あの可愛いさは反則…!
*************
リンクフリーです。
バナーはお持ち帰りくださいね。


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*afterglow-09*


…………―――――。

何かの音がする。
音と、言えるかどうかはわからなかったけど、アキラには確かに"それ"が"聞こえた"。

(なんのおとだろう…)

遠いような、しかしとても近いようなその音がアキラの中で響いていると気づくのに時間は大して必要ではなかった。
ふわりとした意識の中でアキラはそっと胸に手を当てた(つもりになった)。

(…きこえる)

そこは暖かくて、気持ちがよくて…まどろみの中でほぅと息を吐く。
まだ…もう少しこのまま。
ため息がきらきらした小さな球体になって足元を転がっていくのをアキラは見た気がした。

(あったかい…)

そうしてアキラはしばらくしてからゆっくりと目を開けた。
どうしてもそうしなくてはいけない、気がして。

「………ぁ」

ぱちり、ぱちり、と何度か瞬きをしてアキラはふんわりと微笑んだ。

「……………おかえり」

広いベッドの端に腰掛けたシキがゆっくりとした動作でアキラの髪を梳いていたのだ。
赤い瞳はいつものように熱を灯すことなく、ただじっとアキラを見て。
アキラを…見て。

「なぜ笑う」

第一声はアキラの名前ではなかった。
本当は名前を呼んでほしいと思っていたことなんてどこかへ忘れて、アキラは笑む。

「俺ね…シキのこと…待ってたんだ。だから……うれしい」
「うれしい…?」

頬に充てられたシキの手がひやりと冷たく、アキラはまたしても小さく笑った。
シキの温度が確かにその存在をアキラに教えている。
アキラが待ち続けた温度が、そこにあった。

「その感情は真実なのか?」
「…シキ?」
「壊れた理性で感じるものなど信用するに値しない。お前が歓喜だ、幸福だ、といっている"それ"が果たして本当にそう称されているものなのか、お前にわかるはずもあるまい」
「……どうしたの?」

淡々とした喋りはアキラの記憶のままそのままだ。
時折シキが瞬きをしなければ人形なのかと疑ってしまいたくなるような美しく整った顔を、ひとかけらも動かすことなく、アキラに問う。

「…お前は、誰だ?」

不意に放たれた言葉に首を傾げてアキラはその意味を懸命に考える。
主の問いには全力を持って返答をする癖が身にしっかりと染み付いていた。

「俺は…アキラ」
「それはただの名前だろう。そんなものに意味はない」

即座に切り捨てられ、アキラがきゅっと眉を寄せる。

「…俺は……シキの所有物…」

違う、とシキは首をゆるく振った。

「俺が聞いているのはお前は…いったい"誰"なのかということだ」
「ぇ…」

アキラは一生懸命答えを探そうとして、そしてぼんやりと呟く。

「俺は………だれ?」
「…さぁな。お前が知らないことを俺が知っているはずもないだろう?」

あきれたようにシキは呟くと、音もなくベッドから立ち上がった。
弾みで僅かにベッドが揺れる。
博学なシキのことだ、きっと答えはもう既に持っていて、アキラの無知をいつものようにからかうつもりなのだろう、とアキラは思った。
長く離れていた今ではそれさえも愛しく思えて主をより長く目にとどめようとアキラも身を起こしたが、部屋を見渡しても既にシキの姿はどこにもなかった。
扉の開閉音はしなかったはずだった。

「…シキ…?」

ぐるり、と見渡してもどこにもいない。
まるで存在ごとすっぱりと切り取られたような喪失感。
広い部屋にうるさくあの"音"が響く。

「………シキ」

言葉だけ、ただ薄れていく。
空気に溶けて、何も残らない。
立ち上がってカーテンの裏やクローゼットの中、ベッドの下まで探して回って。
部屋を出て執務室、広間…すべて見て回る。

「シキ、シキ、シキ………ッ!!」


…――――――――――――。


(うるさいうるさいうるさいうるさいっ)

音がだんだん大きくなる。
自分が発している声すらうまく聞き取れない。
もはやアキラの中から聞こえているのか外から聞こえているのかわからないほどだ。
脳を揺らし、かき乱す音は聴くだけでひどくアキラを不安にさせた。
これがきっと限界だというところまで音は大きくなり続け、そして突然に痛いほどの静寂が訪れる。
アキラは音が大きくなりすぎてきっと聞き取れなくなったから耳が壊れたのだと、思った。
ぺたりと座り込んで、それでも、主の名を呼ぶのはやめなかった。

 

 

 

 

 


「アキラ!」

はっと息を呑んで反射的に体を起こしたアキラは急激に体を動かしたせいかぐら、と視界が揺れるのを感じた。

「…ぁ…」
「だめだよ…まだ寝てて」

体を押しとどめられて不愉快そうにアキラは眉を寄せる。

「………シキ…」
「っ…」

アキラの呟いたその一言にはっとリンは息を呑んだ。
リンがアキラと体をつなげるようになって、正しくは"シキ"がアキラを抱いてからアキラはまるで機械のように夕飯のあとにリンがアキラの寝室を訪れると決まってリンを"シキ"と呼んだ。
そこからリンは"シキ"に変わるのだ。
もう慣れたと思っていたのに、と一人ごちる。
ただ心構えをしていないというだけで、こんなに痛いのか、と。

「シキ…シキはどこ…っ」

(あぁ…俺を呼んだわけではないのか)

「アキラ…だめだよ…倒れたの覚えてないの?」
「いやだ…っ…だってシキがここにいたんだ!はやく…探さないと!」

体の自由を奪う点滴の針をアキラは忌々しげに体内から抜き取った。
一滴だけ血がぽたり、と落ちて真っ白なシーツににじむ。
無機質な部屋の中で赤い、赤い、そこだけが生の匂いがした。

「だめだ!おとなしくしてて!それに………シキはまだ帰ってきていない!」

その言葉にアキラは二度瞬きをして、くたりとベッドに身を横たえた。
落胆したという言葉のほうが正しいかもしれない。

「シキ…いないの?」
「うん」
「そっか…ゆめ…なんだ」

点滴の絞りを0にして、ひとまず液体の流出を防ぐとリンは乱れたアキラの髪をそっとなでた。

「夢、見たの?」
「そう…シキが…いて…………俺に"お前は誰だ"ってきくんだ」
「シキがそんな事いったの?」

頷いてそのままリンを見つめた。

「ねぇ…俺は…誰?」

シキにきかれたままに今度はアキラがリンへとたずねた。

「アキラはアキラでしょ」

当然だ、というように返された答えに、違うのだ、とアキラはゆるく何度か首を振る。
そしてそっと両手で己の耳をふさいだ。

「アキラ…?」
「聞こえるんだ…うるさくて…ずっと」
「音?…何の?」
「…わからない」

アキラと同じようにリンも自分の両手で耳を塞いでみるも、聞こえるのは腕の筋肉の振動する地鳴りのような音だけだ。

「耳鳴り…かな」
「ちがう…」

ちがうんだ…とポツリと呟く。
その声はあまりに弱弱しく、そして泣きそうでリンの目が苦しげに細められた。


「ちがうんだ…これは……」


そう、この音は。

 

……――――――――――。


(あぁ…そうか)

 

 

 

 

 

 

 

 


「これは………からっぽのおとだ」

 

(……俺の中には何もないから)


アキラは答えを見つけて満足したのか、どこか充足した顔と、そして悲しそうな顔をしてゆっくりと意識を沈めていった。
深い深い……底へ。



************************
あとがきは続きから!

拍手[1回]

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*afterglow-08*

シキが死んだ可能性もある、と報告をしにきた男をアキラが殺せ、といった。
こんなところで報告を受けなければよかったと思うも、それはもはや過ぎたことで。
緊急の知らせに気が急いたのがいけなかったのだ、とリンは奥歯をかみ締めた。
絨毯の上に音もなく落ちたひしゃげた鶴が踏まれる。
よれた翼がとても惨めだった。
そのままアキラはリンの傍をすり抜けてその男のもとへと近寄った。
王の愛妾と影で言われているアキラに言い寄られ、以前は多くの兵が城の主によって死を賜った。
彼もそれを思い出していたのだろうか、報告をしに来ただけの男は体を強張らせてアキラの様子を伺っている。
シキのものとされるアキラにむやみに手をあげることはもちろんできず、かといって報告途中のこの場から退出することもできず。

「シキが死んだって…本当にそう思ってるの?」
「いえ…その…あの可能性の…話、ですから…実際にそうだと決まったわけでは…」

リン相手にだと実に明瞭簡潔に話すこの男もアキラ相手となればこの有様だった。
脳髄が甘くしびれるような、芳しい香気を男は確かに感じていた。
己の中に宿る、その血がざわりと蠢いたような気すらして。
この感覚を城主とそして目の前にいる情人がより強く感じているのなら惹かれあい、あれほどまでに互いに執着する理由がわかる気がした。
王の愛妾に手を出して死んでいったかつての同僚たち。
顔すらおぼろげだが、死ぬとわかっていて手を出すなんて、なんて愚かなのだと、そう思っていた己が確かに今、彼らと同じように揺らいでいるのがわかった。
彼らもきっと同じだったのだろう。
そしてきっと、より強く、ラインに依存していればしているほど、この香気は強く香ってくるに違いない。
目の前にいる上司はラインを服用していない数少ない例外だからこの香りには気がつかないのだろう。
この状況から逃れるためには黙って目を合わせず、ただ立っているのが一番よいのだと、男はわかっていた。
下手に動けば何をしてしまうか、わからなかった。

「ふぅん…そうなんだ」

するり、と男の腰をアキラの指先がなでる。
男はいまだ硬直したまま動かず、リンもまたどうしたものかと眉を寄せていた。
そしてアキラがごくごく自然な動作で男の腰から短剣を抜き取った。

「ねぇ…シキの血を体の中に入れてるってどんな感じ?…キモチイイ?」
「いえ…っそん、な」

きらり、と光を反射してナイフがきらめく。
鞘から出された刃をアキラはうっとりと眺めた。

「ねぇ…シキがいなくなるってことは、ラインがなくなっちゃうって事なんだよ…?俺の血からNicoleは取り出せないんだから」

おもむろにアキラはその鋭い切っ先を指先で滑らせた。
一瞬の後、その指先からは瞬く間に紅玉が盛り上がり、そうしてぱた、ぱた、と音を立てて磨き上げられた大理石の上へと落ちていく。

「これ…舐めてもいいよ?」
「アキラ…さまっ」

抗うように首を振る男に、ほら、とアキラが男のほうへ手を伸ばす。
相変わらず零れ落ちる鮮血が男のシャツの襟元を汚した。
どこか惹かれるような瞳で男の視線がアキラの指先を追う。
僅かでもNicoleをその身に宿すものは非Nicoleに惹かれる運命なのだ。
それを認めるとアキラはにっこりと笑い、どうしたの?と男の頬をなでた。
緋色の痕跡が男の肌に残る。
それは鮮やか過ぎるほどに赤く。
アキラの指先が男の唇にかかる。

「俺の血も…シキのみたいに甘い匂いするの?」

"あげようか?"とアキラはにこりと笑んだ。
けれどその笑顔は虚ろなものだと、リンにはわかった。

そして顔に笑みを貼り付けたまま細い切っ先をアキラが己の首筋に向けた刹那、リンはアキラの手からナイフを叩き落し、その体をぐっと己のほうへと引き寄せた。
細い体はいとも簡単に傾いで、すっぽりとリンの腕の中に納まる。
リンが遠くへ蹴やったナイフが壁に当たって澄んだ音を立ててからはっとしたように男は体の緊張を解いた。
あまりの出来事に男は目を見開くばかりで混乱しているさまがありありと伝わってくる。

「……」

一方、どこかぼんやりとした瞳でアキラはリンを見上げるとその赤く輝く指先を舌でちろりと舐めた。
扇情的なその表情もどこか歪んで見えて、リンは僅かに顔をしかめる。
視線が、交錯する。

「ふふ…っあはははは…っ…はは」

突発的な発作のように笑い出したアキラはリンの腕を押しのけた。
そこまで強い拘束をしていなかったことと、やはりどうしてもアキラの好きにさせてしまうリンは払われた手にかまうことなく、アキラをただじっと見つめた。

…以前シキの留守中にふとしたことでアキラが怪我をしてしまったことがあった。
そのときアキラが"血が出なくてよかった"と、安堵したのをリンはよく覚えている。
"俺を傷つけていいのはシキだけだから"と他ならぬアキラ自身がリンにそういったのだ。
それなのに指先だけとはいえアキラは自らを傷つけた。
それがなによりリンは信じられなかった。
そして、自分の首筋にもまた同じように刃を宛がった。
本気だったのかどうかは分からなかった。
ただ…以前までのアキラならこんなことしなかったはずだった。


リンの目の前ではアキラがくすくすと笑い続けている。
アキラが確実に、狂気へと足を進め始めたのは明らかだった。
それなのに、リンにはどうやってそれを止めたらいいのか、まるでわからなかった。
どうしたらいいのか、方法ひとつ見出せない。

「アキラ…!?」

ふ、と笑い声がやむのと同時に、目の前でアキラの体が前のめりに崩れ落ちていった。
その細すぎる体を助けおこしながらも、きっとアキラの狂気は止められない、とリンは頭のどこかで確信…していた。

********************************
あとがきはつづきから

拍手[1回]

最近たくさん拍手をいただくので調子に乗って拍手お礼を更新してみました。
内容はたいしたことないのに意外と長くなってびっくりしております!

わざわざぱちぱちしてくださってついでにコメントまで下さる方の熱意にいつも励まされております!
やっと重い腰を上げて昨日afterglowを書き始めました。
終わりが見えません!
重すぎる腰がまたすぐにでも床に着かないか心配です!
がんばります!

こっちに下ろしてきたお礼はまた特別短いですね。
いつ書いたんだろう、これ。
最後にお礼更新したのは5月の中旬だったので2ヶ月半くらい前ですね。
ちょうどいいころあいかなぁと思います。
ぜんぜん連載が進まないのに拍手お礼ばかり更新するサイトで非常に申し訳ない!


******************

*blind*

手のひらに感じるシキの熱。
俺よりも低い体温に安堵さえ覚え始めてる。

瞬間、赤い瞳が…ゆらめいたようにみえた。
部屋の隅で灯る蝋燭のせいだろうか。
俺は緩く首を振って目を閉じる。

この瞳にとらわれてもうどれだけ経ったのだろうか。

新雪に跡を残すように。
肌をじわりと侵す毒のように。
その存在が俺の奥深くまで入り込んで絡みついて…もうほどけない。

それに抗った日はもう遠い昔。
いや、物理的な時間など重要じゃない。

ただ、彼の傍で。
いまや願うのはそれだけだ。
目覚めてくれなくても…構わない。

俺の目を…もう見てくれなくても。

 


たとえもう…目覚めてくれなくても。

 

拍手[0回]

*幸福論*


アキラはいつもふわふわと歩く。
まさに、地に足が着いていない、という表現のようだと思う。
それが裸足によるせいなのか、それとも軽すぎる体重のせいなのかは分からないけれど。
わずかに左右に傾ぎながら、夢見るような瞳で城を徘徊するその様はどことなく夢遊病患者を髣髴とさせもして。
ただ、その瞳が追うのはきまっていつも一人だった。
俺が来る前はいろいろ"遊び"もしていたらしいけど…想像つかない。

「アキラ」
「………なに?」

扉を開けたところで回廊の向こうを歩くアキラの背中が見えて俺は早歩きで追いかけた。
昼間にアキラが城の中をうろつくなんて珍しい。
黒を基調とした城ではアキラのまとった白いシャツは特に目を引いた。
眩しいほどの白くほっそりとした足はすらりと長く、ただ痩せているというには若干病的な体はシャツをもてあましている。

「どこに行くの」
「シキのところ」
「シキには今は会えないよ」

普段の執務であればシキもアキラが入ってこようと特に邪魔をしなければ咎めることもない。
もちろんリンがそれに異を唱えるわけも無い。
しかし今日はNicoleの研究員の定例報告会の最中だ。
さすがにそこにアキラを入れるのはまずい。
もちろん、非Nicoleであるアキラをそうやすやすと彼らの目にさらすのは得策でないからだ。
研究自体はシキが選りすぐった精鋭が行っているはずだが助手ともなればいささか質は落ちる。
以前、アキラを研究対象としようとして無理やり拉致した男の事は記憶に新しい。
アキラはあれからしばらく注射針などにひどく怯えていた。
アキラが恐慌状態におちいるほど、そいつが何かを残したのかと思うとやりきれない思いでいっぱいになる。

「俺…シキに会いたいんだ」
「どうして?」
「…わからない」

すこしだけ悩んだあとにアキラはやんわりと首をかしげた。
さらり、と伸びた髪が揺れる。
髪を…アキラはなかなか切らせてくれない。
伸ばすにしても毛先をそろえなくちゃいけないのに。

「わからない?」
「シキの傍にいたいから…だから会いたいだけ」

アキラの言葉は簡単で、まっすぐで…だから時々はっとさせられる。
痛いくらい、胸に刺さる。

「もう少しだけ待ってて。そうしたら俺がシキのところへ連れて行ってあげる」
「もう少しって…どのくらい?」
「うん…そうだね。予定だと…あと1時間くらいかな」

当然その後にだってシキは仕事を控えてるけど…まぁかまわないだろう。
報告会が終わってからしばらくはデスクワークの予定だし。

「1時間…」

そっか…とアキラは呟いて今まで向かっていた方へと再び歩き出した。
このまま行ってもアキラの部屋は無い。
そしてこの先にはシキの執務室。
もちろんそこに…シキはいない。

「アキラ」

今度は視線だけで俺の呼びかけに応えるとゆっくりした足取りをとめる。

「シキを待つんだ…それもだめなの?」
「……それは…」
「だって…シキはすぐには俺の部屋にはきてくれないから…」

確かに執務室にいるほうが早くシキと会えるのは間違いない。
俺は僅かな逡巡の後、ゆるく頷いた。

「いいよ。じゃぁこれ持って」

書類ケースをアキラに渡してその体をひょいっと持ち上げる。
軽くて、細い体は見た目に違わずやっぱり壊れそうだった。
無意識に慎重になる足取りで余計な振動を立てることなく目的地まで足を運べば、どこか楽しそうにアキラが微笑んで。
…それだけで満たされる気がして。

いつもはシキが腰掛ける革張りのチェアに埋もれるようにしてアキラは座った。
膝を抱き寄せて小さく小さくなる。
いつもならそこに尊大にシキが座っているのにと考えるとその光景はどこかほほえましい。

「アキラ、俺まだ仕事が残ってるんだ…ここで一人でも平気?」
「…へいき」

わかった、と俺は頷いて念のため警備をまわしておくことにする。

「終わったらちゃんとシキ、つれてくるから」
「ん…」

こくり、とアキラは頷いて大きな窓へと目を向けてしまった。
癖のようにアキラは部屋でも外を良く見つめていた。
もっとも、こんな城の中でアキラがシキといることのほかに娯楽を見つけられないからそれも致し方ないことなのだけど。
それは健気過ぎて、少し……心が締め付けられる。

 

シキと執務室へと戻ればアキラの警護につけていた二人がさっと扉を開けた。
いつもはいないはずのその警備にシキが怪訝そうに僅かに眉を寄せるのを横目で確認する。
そのまま歩を進めれば奥にあるソファでアキラがすやすやと眠っていた。
シキのチェアはすわり心地は良かっただろうが、やはり寝るには不満だったのだろう。

「…………お前の差し金か?」
「アキラがシキに会いたいって言ってたから」
「部屋で待たせておけ」
「"シキはすぐには俺のところには来てくれない"って言ってたよ」
「ふん…当然だ」
「………もっと優しくしてあげればいいのに」

アキラのこと大好きなくせに。
シキのほうが実は自分から逃げている、と……思う。
こんな事いったら殺されそうだけど。

「優しく、だと?十分可愛がっているつもりだが」
「可愛がる、の意味がちょっとねぇ」

部屋には他の兵はいなくて、自然と口調が砕けたものになっていく。

「アキラは猫とか犬とか…ペットじゃないんだよ?いいじゃん、幸せだろ?こんなに自分のことを思ってくれる人がこんなにすぐ傍にいるんだよ?」
「あれは俺の所有物だからな」
「なにそれ、ほんといつ聞いても意味わかんないよ」
「その頭の悪さには同情すら覚えるな」
「あー、はいはい。自分のほうが数倍も頭悪いってことに気づいたほうがいいかもネー」
「貴様…」

ぎろ、とシキの目が俺に向いて。
なんだよ、俺と話してるときにアキラしか見てなかったくせにさ。
アキラしか、見えてないくせにぜんぜんそれを認めようとしないなんて。
アキラのほうがよっぽど人間できてるよ。

「まぁ、俺はこれから他の仕事あるから…1時間後に書類取りに来るよ」
「1時間も要らん」

たしかに30分もあれば余裕を持って終わらせることができる量だけど。

「違うって、俺が他の業務するのに1時間かかるんだ!だからそれまでシキは休憩でもしてれば?」

アキラと、とは付け加えなかったけど、どうせ言わなくたってアキラと過ごすに違いないのだし、俺はそうすると邪魔者だからなぁ。
シキのそばで幸せそうなアキラを見ると複雑な気分になる。
嬉しい気持ちと、少しだけ混じった嫉妬、それから寂寥と、後悔。
いろんなものがごちゃごちゃと俺を惑わすから、今日のところは自分から退場することにした。

ゆっくりと執務室の扉を閉めて自分の仕事部屋へと移動する。

「でも…アキラが幸せそうだから……いっか」

なんだかんだ言ってもやっぱりすべてはそこに帰結するのだ。

 


いつのまにか自然と俺は微笑んでいた。

********************
あとがきは続きから!

拍手[0回]

お約束どおり更新できました…っ!!
良かった!
なんか…私の中でうまくまとまりきれてないので…残念な感じです。
ちょ…ちゃんと整合性取れてんのかな、コレ!

*****************************

*afterglow-07*

リンはアキラの部屋へと続く重たい扉を開けて思わず息を呑んだ。


赤い紙ばかりで折られた鶴が、ベッドの上いっぱいに広がっていたからだ。
またベッドだけでは収まりきらなかったのだろう。
打ち捨てられたように床へと落ちてしまっているものもあるが、製作者であるアキラは特に気にした風もない。
ベッドの上で黙々と折り鶴を作り続けている。

「…これ…どうしたの?」

リンはゆっくりとそれらを踏まないようにして部屋の中央に鎮座するベッドへと歩いていった。
天蓋から続く、幾重にも重なる薄い紗幕は今は緩やかにリボンで括られていたが、相変わらずアキラの存在感はベールを駆けたように希薄なものだった。
触れれば空気に融けて消えてしまいそうだった。

「千羽…折ろうと思って」

リンが夥しい量の鶴を見て感じたことはひとつだった。
赤い色はシキの瞳の色だ。
ほとばしる血の、赤。

「千羽鶴…か」
「願いが…かなうんでしょ」

アキラにリンがそれを言ったのは昨日のことだ。
まさか本当に千羽折ろうとするとは思いもしなかったのだが。

「そうだね…そういうおまじないだ」

おなじないだと、もう一度言ったにもかかわらずアキラは目線を既に折り紙へと戻していた。

「だから…折ってるんだよ」

そういうとアキラは出来上がった鶴の羽を開いて、ぽいっと放った。
出来上がったものに興味はないといわんばかりに新しい紙を手にとってまた鶴を折り始める。
リンはその指先が赤くなっていることに気づいてやんわりと作業をやめさせた。
一瞬、インクがついたのだろうかとも思ったのだが、そうでないことはすぐに分かった。

「アキラ…今日はこの辺にしておこうか」
「どうして」
「指、擦れて痛いでしょ?…真っ赤だよ」

綺麗に折り目をつけるため、指先を何度も酷使した為だろう。
薄い指先の皮膚が赤く染まっていた。
まだ血は出ていないが、ひどく痛みそうだった。
リンは擦過傷ができたときの痛みを思い出して僅かに眉をしかめる。

「薬を塗ってあげるよ」

リンはアキラがこれ以上鶴を折らないように折り紙の束を受け取ってから、扉の外で控える女性に薬やガーゼを持ってくるように伝える。
それはすぐに届けられ、アキラの折った折鶴を丁寧に脇によけてからリンはそっとベッドに腰を下ろした。
軟膏を優しくすり込めばやはり痛みがあるのだろう、アキラは微かに目を細めた。

「あんまり無理したらだめだよ、アキラ」
「無理……?」
「そう」

よく分からない、というようにアキラは小さく首をかしげてその言葉の意味を考えているようだった。
そんなアキラをリンは微笑みとともに見つめた。
いつ見てもほんとうに綺麗だと感じてしまうのはなぜなのか、リンはアキラに出会ったころから抱いてきた疑問の答えを未だに見つけ出せないでいる。
アキラの顔は特別女性的であるというわけではないのだから。
それでもアキラを形容するときに出てくる言葉は"綺麗"なのだった。
イグラに参加していたときも、寝顔も、淫蕩にふけるその様さえも。
その全てが。

「そういえば昼食は少し食べたみたいで良かった。シェフが喜んでたよ」

あの喜びようは凄まじかった、とリンは思い出す。
アキラ様がお食事を!と息せき切って報告してきた顔が本当に嬉しそうだったのだ。
最近はリンがほぼ強制的に食べさせていたようなものなのだが、それでもリンは毎食、いつでもアキラと共にいれるわけではないため、傍について夕食をとらせるのが精一杯だった。
そのため朝、昼、とアキラはほとんどものを食べない、ということも少なくなくアキラの細さに拍車をかけていた。

「うん…シキが、食べろって言ってたの…思い出したんだ」
「シキが?」
「俺が食べたくないって言ったら、"それは食べるのが面倒なだけだろう"って。それで、食べろって」
「そっか」

シキはいつも俺にご飯を食べさせようとするんだ、とアキラがつぶやくとリンはそっとその頭を撫でてやる。
柔らかな髪が指の間を通り抜ける感覚がひどく心地よくて自然とリンの表情が緩む。
リンの知らない、昔の話をするアキラの顔は喜びと寂寥が入り混じった顔をしており、おそらくアキラ自身はそのことには気づいていない。
それが妙に切なかった。

「隊長、お伝えしたいことが!」

扉の向こうでノックから間髪空けずに呼びかけられ、リンはぎゅ、と眉を寄せた。
平常時ならばリンと掃除やシーツの交換などを行う女性達以外はこの部屋のある廊下への立ち入りを禁止てているからだ。

「アキラ…ちょっと行って来るね」
「…うん」

そっと頬を撫でてリンはアキラがうなずいたのを確認すると素早く部屋の外へと出た。

「…どうした」
「遠征部隊の足取りが掴めましたッ」

走ってきたからなのか、それとも寒さのせいなのか男の顔色がやけに…悪い。
リンは瞠目すると心を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐いた。

「詳しく聞かせろ」
「先ほど第2部隊の隊長から通信がはいりました。…彼の話によるとシキ様の行方がつかめないと」
「何があったんだ…ッ」

自然とリンの口調が厳しくなっていた。
語気は荒く、声量も増していく。

「…ロシアとの戦闘中だったようです。原因は不明とのことですがどうやら機関部から発火し、武器庫に引火したのではないかと。シキ様と直属部隊をはじめとする大多数が未だ生死も分からない状態だそうです」
「なぜ、ほかの船からの通信がなかった?」
「船は全て…やられたようです」

リンはそのままじっと押し黙る。
通信が途絶えた理由は分かった。
船が沈んだのなら通信機器も全て潰れただろう。
しかし軍艦が、そうやすやすと沈むものだろうか。

「生存確率は?」
「はっきりとは申し上げられませんが…亡くなられたという可能性も少なくありません。爆発はとても大きかったようで、浜辺に打ち寄せられる死体その大多数は損傷が激しく、識別番号でしか個人を特定できないようです」

短く、簡潔な報告だった。

「…シキが死ぬわけないよ」

はっとリンは後ろを振り返る。
重い扉が僅かに開いており、その隙間からアキラの美しい瞳がこちらを見ていた。
目が合ってリンは思わず言葉を失った。
アキラが…微笑んでいたからだ。
片手に折り終えた折鶴を一羽持って。
いったいいつから聞かれていたのだろうか、とリンは素早く会話を遡る。
アキラがリンが事実を隠していたと知ったらどう思うのだろうか。

「ねぇ…シキが死んだなんてそんな冗談笑えないよ。…全然面白くなんてない」

そういうなりアキラはくすくすと笑い始めた。
笑い声もその笑みもおかしなところなどひとつもないはずなのに、確かにそれは狂気だった。

「シキがすごぉく強いの…知ってるでしょう?」

アキラはするりと廊下に出てくるとリンの腰に抱きついて、とろんとした瞳でリンを見つめた。

「アキラ…」
「リン、こいつ殺してよ…シキが死んだなんて…嘘言うやつは嫌いだ」

ぐしゃりと音を立ててアキラの手の中で赤い鶴が…死んだ。

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BrownBetty 
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